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68歳母、長男家族を拒否するきかっけになった昨夏の事件
「今年のお盆は帰らなくていいです。……もう2度と、この家には来なくて結構です」
神奈川県で一人暮らしをする吉岡節子さん(68歳・仮名)は、長男からの電話にそう答えました。夫を5年前に亡くし、現在の収入は遺族年金を含めて月15万円、手取りは14万円強です。毎月の生活費は12万円以内に抑え、残りを修繕費や冠婚葬祭などに備えて積み立てています。
築42年の一戸建ては、夫が定年直前に住宅ローンを完済した家です。古くなった外壁やきしむ床も、そのまま大切に手入れをしながら暮らしてきました。長男は驚いた様子で聞き返しました。
「そんなに怒っているの?」
「怒っているんじゃありません。もう安心して家に迎えられないんです」
内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上で一人暮らしをする人の割合は増加の一途をたどっており、令和2年時点で男性の15.0%、女性の22.1%に達しています。また、同白書の国際比較調査では、日本のシニアが生きがいを感じる時のトップは「子供や孫など家族との団らんの時」であり、半数以上の53.6%を占めています。
一人暮らしのシニアにとって、お盆やお正月に離れて暮らす家族が帰省してくることは、日々の寂しさを埋める何よりの「生きがい」であるはず。それにもかかわらず、なぜ節子さんは長男家族の帰省をこれほどまでに固く拒絶したのでしょうか。その裏には、現代ならではの「まさか過ぎる理由」が隠されていました。
節子さんが帰省を断るようになったのは、前年の夏に起きた、ある出来事がきっかけでした。前年のお盆、節子さんは長男夫婦と中学2年生の孫・悠斗さんが3泊することを楽しみにしていました。
「大きくなってきたから、一緒に食事をしたり、いろいろ話したりできると思っていたんです」
悠斗さんは、家に着くとすぐスマートフォンを取り出しました。玄関先、庭、居間、台所。目についたものを次々と撮影していきます。
「ばあちゃん、この家、昭和っぽいね」
「もう40年以上住んでいる家だからね」
節子さんは笑って答えました。孫が写真を撮ること自体は気になりませんでした。
「友だちに見せるのかな」
その程度に考えていたといいます。帰省は何事もなく終わりました。ところが約2週間後、買い物帰りに近所の女性から思いがけないことを言われます。
「吉岡さん、お孫さん、SNSをやっている?」
突然の問いに、節子さんは首をかしげました。
「どうしてですか」
「うちの娘が見つけたの。『ばあちゃん家、昭和のままだった』っていう投稿。吉岡さんのお宅が映っていたから……」
節子さんは帰宅すると、すぐにスマートフォンでSNSを開きました。普段から自治体の情報や年金関係の手続きを調べるために使っているため、操作には慣れています。投稿には、自宅の外観や玄関、居間、台所の写真のほか、短い動画も複数掲載されていました。
・夫が40年以上使っていた応接セット
・色あせた電話台
・押し入れに残る古い布団
さらに、食事中に「最近は何でも値上がりして困るわね」と話す節子さんの様子や、エアコンのリモコンを操作しながら「これ、暖房になっちゃった?」と戸惑う場面まで投稿され、閲覧数は4万回を超えていました。
コメント欄には、
「こういう家、まだ残っているんだ」
「レトロで逆に新鮮」
という声もありました。一方で、
「おばあちゃんまでネタにされてる」
「家の中まで載せるのはどうなんだ」
という書き込みも並んでいました。画面を見つめながら、節子さんは思いました。
「私は、思い出を残してほしかったんじゃない。家族だからと信じて家に迎えたのに、その家が知らない人たちの見世物になってしまったんです」