今GOLDを語る理由
今のGOLDは、「有事だから上がる」「下がったからもう終わり」という単純な見方では整理しにくい局面です。実際、2026年7月初旬の金相場は、米ドルや金利の動き、原油高によるインフレ懸念、FRBの引き締め観測に押されて大きく揺れました。
7月6日時点でロイターはスポット金が1オンス4,163ドル台と伝え、その後7月8日には4,067ドル台まで下落しています。さらに6月のスポット金は11.65%下げ、月間では2008年10月以来の大きな下落になりました。
つまり、GOLDは「怖いニュースが出たら必ず上がる資産」ではなく、金利・ドル・インフレ・地政学がぶつかる場所で値動きする資産だと理解したほうが、ずっと現実的です。
だからこそ、富裕層や経営者が見るべきなのは、今日の価格そのものではなく、「自分の資産全体のなかでGOLDにどんな役割を持たせるか」です。
株式の成長力は魅力的ですし、現金の安心感も捨てがたいものがあります。ただ、株だけ、現金だけ、円だけ、ドルだけに寄せると、想像以上に偏った資産設計になりやすい。ですからGOLDは『そこ』を埋めるための道具として使う。そう考えると富裕層がGOLDを持つ意味が明確になってきます。
価格ではなく役割を見る
GOLDは「増やすための主役」というより、「崩れにくくするための中核パーツ」として考えるのがいいでしょう。
中央銀行がGOLDを持つ理由として、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の調査をロイターが伝えたところでは、危機時の信頼性、長期的な価値保存、分散効果が繰り返し挙げられています。2026年の調査では、回答した中央銀行の45%が今後12ヵ月で自らの金保有を増やす考えを示し、93%はすでに金を保有しています。
この点は非常に重要です。国レベルの運用主体が、短期チャートではなく「通貨と金融システムを補完する資産」としてGOLDを見ているわけです。
しかも、価格が下がった局面でも買いが止まっていません。ロイターによれば、中国人民銀行は2026年6月に約15トンを積み増し、これで20ヵ月連続の買い越しになりました。6月の金価格が大きく崩れたあとでも、中央銀行サイドは撤退するどころか、むしろ保有を増やしているのです。
ここを見ると、GOLDは「上がったら人気、下がったら不要」という商品ではないとよくわかります。長い目線での防衛資産として、まだ買い手が残っている。私はこの事実をかなり重く見ています。
今のGOLD市場で起きていること
もうひとつ見逃せないのは、株式側の集中です。米国株インデックスは分散投資の代表選手のように見えますが、2026年7月7日時点のSPY(S&P500ETF)では、NVIDIAが7.39%、Appleが7.07%、Microsoftが4.48%、Amazonが3.73%、Alphabet Class Aが3.34%です。上位5社だけで約26%を占め、情報技術セクターの比率は36.66%に達しています。
つまり「S&P500を買っているから十分に分散できている」と思っていても、実際には、大型テックへの依存度がかなり高い状態です。
もちろん、私は米国株の成長力を否定したいわけではありません。むしろ、富裕層や経営者ほど株式の成長エンジンは必要です。ただ、そのエンジンが強くテックに偏っているなら、値動きの異なる資産を一緒に持つ意味は以前より大きくなります。
そこでGOLDが効いてきます。GOLDは配当を生みませんし、金利上昇局面では逆風も受けます。それでも、株式と同じドライバーで動くわけではないので、資産全体の揺れ方を変えてくれます。ここを理解している人ほど、GOLDを「上がるかどうか」ではなく、「なにを守るか」という視点で選びます。
富裕層・経営者向けのETFの選び方
GOLDを米国ETFで持つなら、私はGLD、GLDM、IAU、IAUMの4本を中心に考えれば十分だと思います。違いはとてもシンプルで、「流動性を優先するか」「保有コストを抑えるか」です。
・GLDは、米国上場の金ETFとして最古参で、2026年7月2日時点の純資産総額は約1,328.9億ドル、経費率は0.40%、30日中央値の売買スプレッドは0.01%です。オプションも使えるので、大きな資金を機動的に動かしたい人、流動性を最優先する人に向いています。
・GLDMは、2026年6月24日時点の純資産総額が約272.99億ドル、経費率は0.10%、30日中央値の売買スプレッドは0.01%です。GLDよりかなり低コストなので、長く持つ前提なら非常に使いやすい一本です。オプションはありませんが、長期保有中心なら大きな問題にはなりにくいでしょう。
・IAUは、2026年7月8日時点の純資産総額が約605.8億ドル、スポンサー報酬は0.25%、30日中央値の売買スプレッドは0.01%です。規模とコストのバランスがよく、GLDほど経費率を払いたくないけれど、一定の厚みは欲しいという人に合います。
・IAUMは、主要な金ETFの中でも低コスト帯で、iShares公式ページでは、スポンサー報酬は0.09%とされています。小さめの売買単位で使いやすく、コストを極力削りたい人の候補になります。
私なら、大口で素早く取引するならGLD、長く積み上げるならGLDMかIAUM、規模とコストのバランスを取りたいならIAU、という選択をします。
ここで重要なのは、どれが一番優秀かではありません。ご自身の資産規模、売買頻度、非課税口座の使い方、税務、そして「持っていて落ち着くか」で選ぶことです。同じGOLDでも、合う器は人によって異なるものなのです。
NISAとブリタニア金貨の使い分け
日本のNISAは2024年から制度が見直され、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は最大1,800万円に拡大されました。さらに非課税保有期間も無期限化され、以前よりも長期で資産を保有しやすくなりました。ロイターも、制度改正が日本の家計資産を投資へ振り向ける後押しになっていると報じています。
ここでGOLDを活用するなら、NISAではまずETFで保有することを考えるのが自然です。売買のしやすさ、価格の透明性、非課税メリットの使いやすさを考えると、GOLDの入口としてはかなり合理的です。
ただし、私はNISAだけで完結させるのは少しもったいないとも思います。なぜなら、口座のなかのGOLDと、自分の手元または信頼できる保管先にあるGOLDは、役割が違うからです。そこで候補に入るのがブリタニア金貨です。
ブリタニアは1987年に始まった英国の地金型金貨で、2013年以降の地金型は純度999.9のファインゴールドです。さらに2021年以降のブリタニアには、潜像、マイクロテキスト、サーフェイスアニメーション、ティンクチャーラインといったセキュリティ要素が加わりました。認知度、純度、視認性のバランスがよく、現物保有の候補としておすすめの一枚です。
もちろん、現物には現物ならではの注意点があります。ETFと違って保管、盗難対策、購入時のプレミアム、売却時の買取価格との差といった現実的なコストが乗ります。
一方で、口座の外に置けること、管理会社やカストディアンの仕組みを一段飛ばして「自分の資産」として認識しやすいことは、現物ならではの価値です。ETFは機動力に優れ、ブリタニア金貨は所有感と独立性に優れる。私はこの2つを対立させるのではなく、役割分担させるのが賢いと思っています。
小川からの実践アドバイス
富裕層・経営者の方がGOLDを取り入れるなら、まず大切なのは「一気に当てにいかない」ことです。
GOLDは短期で上下します。ですから、最初から全額を一度に入れる必要はありません。まずは総金融資産のなかで5%から15%ほどを目安に、何回かに分けて持ち始める。このくらいの入り方のほうが、気持ちも運用も安定しやすいでしょう。これは“儲けを狙う比率”ではなく、“守りを効かせる比率”として考えてください。
そのうえで、日常の流動性はETF、口座外の安心はブリタニア金貨という二層構造にすると、設計がきれいです。
たとえば、NISAや証券口座ではGLDMやIAUのような低コスト寄りのETFを積み上げ、大口で機動的に動かしたい分だけGLDを使う。別枠で、家族資産や事業防衛の感覚でブリタニア金貨を少しずつ増やす。
この形なら、成長資産である米国株を残しながら、資産全体のバランスを整えやすくなります。米国株インデックスの集中が強い今だからこそ、この設計は多くの方に有効な手段となり得るでしょう。
最後に一つだけ。GOLDは、派手に人生を変えるための資産ではありません。けれど、資産全体を壊れにくくする力はとても強いものがあります。経営者の方ならよくご存じのはずです。
会社も家計も、伸ばすだけでは不十分で、崩れにくい設計が必要です。GOLDはまさにそのための道具です。価格だけを追いかけるのではなく、役割を理解して静かに持つ。私はそれが、今いちばん上質なGOLDの使い方だと確信しています。
小川 竜一
アールトラスト・インベスターズ株式会社 代表取締役
