金(ゴールド)の買い手が増えたワケ
派手な値動きの資産が目を引く時代ほど、実は「静かな強さ」を持つものが見直されます。今の金がまさにそうです。
ワールド・ゴールド・カウンシルによると、2025年の世界の金需要はOTC(店頭取引)を含めて初めて5,000トンを超え、価格は年間で53回も史上最高値を更新しました。金ETF保有は801トン増え、バー・コイン需要は12年ぶりの高水準、中央銀行の買いも863トンに達しています。
これだけ多様な買い手が集まった背景には、インフレや地政学リスク、通貨不安といった「なにが起きてもおかしくない空気」のなかで、資産の芯を整えたいという思いがあると考えます。
ただし、ここで大切なのは、金を神格化しないことです。2026年に入ってからの金相場は高値圏にある一方、2月には歴史的な乱高下が起き、4月後半には5週ぶりの週安も報じられました。市場はいつでも一直線ではなく、金にも揺れはあります。
だからこそ、金は「一発で資産を増やす道具」ではなく、「荒れた天気の日にもしっかり立っていられる靴」のような存在として見るほうが、初心者にはずっと健全です。
投資初心者にこそ向いている「金」という資産
日本でも、先行きの物価上昇を見込む家計が多い状況が続いています。そんな環境では、現金だけを握り続けることに不安を覚える人が増えるのは自然なことです。
金が投資初心者にとって相性のいい資産といわれるのは、希少で流動性が高く、しかも「誰かの負債ではない」からです。企業の業績だけに左右される株とも、発行体の信用に依存する債券とも違う。
さらに、長期の分散投資において戦略的な役割を果たしうるとされ、日本の投資家向け分析でも、インフレや株式との相関の低さ、地政学リスクへの備えという観点から金の意義が整理されています。
加えて、持ち方の選択肢が多いのも、金投資のメリットでしょう。ETFやオンライン型なら少額から始めやすく、積み立てもしやすいのが特徴です。
そのほか、地金や地金型金貨は「自分がなにを保有しているのか」が目に見える安心感があります。投資用の金貨は多くが政府発行で、価値の基礎は金の含有量にあります。
ワードローブでいえば、流行の一着より先に、いい生地のベーシックなコートを持つ感覚です。まず金で土台をつくる。そうすることで、投資の景色はかなり穏やかになります。
モダンコインが投資を華やかにする
そのうえで、投資の世界にぐっと表情を与えてくれるのがモダンコイン(※)です。
(※)主に過去50年〜100年以内(特に第二次世界大戦以降)に発行された、状態の良い近年(現代)のコインのこと。
アメリカ合衆国造幣局は、プルーフ(鏡面仕上げ)貨や未使用の収集用コインが限定発行数を背景に集められる一方、地金型コインは貴金属投資の手段だと説明しています。また英国王立造幣局は、プルーフ貨が通常の流通貨よりも多く打刻され、手作業で検品され、限定数量で供給されるため、希少性や美術性を帯びるとしています。
つまりモダンコインは、「金そのものの価値」に加えて、「仕上げ」「発行枚数」「デザイン」「テーマ性」という別の魅力が重なる世界です。金に、物語とドレスが一緒に着せられているようなものですね。
ただし、ここは地金よりも選び方が重要です。第三者鑑定機関のNGCは、コインの真贋やグレードを評価し、1から70までのシェルドン・スケールを業界標準として用いています。
一方、同社の価格ガイドは、希少コイン市場では短期の価格変動が大きく、特に売買件数の少ない銘柄ほど値の振れが大きいので、価格表だけに頼らず十分な調査が必要だと明記しています。
要するに、モダンコインは「買えば上がる」ではなく、「なぜその1枚なのかを説明できるか」が勝負です。ここを丁寧に見極められる人ほど、投資との向き合い方にも品が出てきます。
アンティークコインが資産に物語を与える
さらに奥行きをもたらすのが、いわゆるアンティークコインです。大英博物館の貨幣・メダル部門は、紀元前7世紀の貨幣の起源から現代までを含む約80万点のコレクションを所蔵しています。
古いコインの魅力は、単に数が少ないことだけではありません。その時代の美意識、宗教観、王朝の栄枯盛衰、交易の広がりまで、小さな円盤のなかに折りたたまれていることです。金を持つ喜びに、歴史を手のひらで感じる楽しさが加わる。これは地金だけでは味わえない贅沢でしょう。
もちろん、アンティーク領域には繊細さもあります。たとえばNGCの古代コイン専門サービスでは、通常のグレードだけでなく、打刻、表面、作風まで細かく評価されます。同時に、古代コインの真贋や帰属は専門家の見解であり、絶対保証ではないことも示されています。
だから初心者ほど、由来が明確で、鑑定や保存状態がしっかりしたものから選ぶほうが安心です。アンティークコインは、速く走るための資産ではありません。むしろ、立ち止まって学ぶほど価値が深まる、静かな知的財産のようなものです。
長く楽しむための向き合い方
私が投資初心者におすすめしたいのは、「土台に金、彩りはコイン」という考え方です。資産保全の中心には金を置く。その周りに、気に入ったモダンコインや、背景に惹かれたアンティークコインを少しずつ添える。すると投資は、損得だけをにらむ作業ではなくなります。
届く日を待つ時間、資料を読む時間、グレードや発行背景を知る時間まで、すべてが学びになり、楽しみに変わります。数字だけでは続かなかった人でも、1枚のコインがあるだけで不思議と前向きになれるのです。
とはいえ、無理な背伸びは必要ありません。英国王立造幣局も、地金市場には価格変動リスクがあり、過去の実績は将来を保証しないと明記していますし、足元の金市場も実際に大きく揺れました。
だからこそ、焦って買い急ぐ必要はありませんし、見栄で枚数を競う必要もありません。自分が納得できる重さ、自分が美しいと思える1枚、自分が長く持ちたいと思えるテーマ。その3つがそろったとき、投資はグッと自分らしいものになります。
金は、静かに支える土台です。モダンコインは、そこにきらめきを添えてくれる存在。アンティークコインは、さらに時間の深みを運んでくれます。守る、楽しむ、学ぶ。その3つがひとつに重なるから、金の世界は飽きません。
投資は専門家や一部の資産家だけのものではなく、未来の自分と資産を守りながら、学びや楽しみを広げてくれるものでもあります。
次にコインの世界に触れるとき、「今日はどんな1枚に出会えるだろう」と少しでも心が弾むなら、その気持ちこそが、金やコインと長く付き合っていくための第一歩になるはずです。
小川 竜一
アールトラスト・インベスターズ株式会社 代表取締役


