「きっと、もうすぐ良くなる」から流れた14年の歳月

自室へ閉じこもる日が続き、精神科にも通うようになった息子。「無理をさせたら長引いてしまうかもしれない。今は追い詰めないようにしないと」――そう両親が考えたのも当然でしょう。

食事の準備、必要なものの購入、年金・健康保険、果ては養育費の支払いまで、和代さん夫婦は康介さんの生活のすべての面倒を見ました。

療養を始めて半年ほど経つと、表情も徐々に明るくなり、家族との会話も増えていきました。和代さんは「そろそろ短時間でも働けるのでは」と期待しましたが、康介さんは「まだ自信がない」と首を縦に振りません。

そして――気づけば14年。康介さんは52歳です。仕事には戻れず、別の会社で再就職もしていません。生活費も当然、和代さん夫婦の負担です。

働かなくても衣食住に困ることはなく、親が生活を支え続ける日々。その姿を見ながら和代さんは、「家に財産があるからこそ、康介は焦って社会へ戻ろうと思えなくなってしまったのかもしれない」と考えるようになりました。

和代さんは時折、夫にこう漏らします。

「お金なんて、持っていないほうがよかったのかもしれないね……」