年金を増額させる「繰下げ受給」は老後不安を解消する手段のひとつ。しかし、額面上の得を追求するあまり、夫婦で元気に過ごせる「限られた時間」を犠牲にしてしまうケースも少なくありません。70歳まで働き、年金月25万円を受け取る男性が直面した、お金の損得勘定では測れない残酷な現実をみていきます。
年金なんて繰り下げなきゃよかった…「年金月25万円」70歳夫、5歳上の妻を前に「早く年金を受け取るべきだった」と後悔するワケ

女性の「健康寿命」は75歳前後という現実

厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、繰下げ受給率は令和2年度の1.0%から令和6年度の1.9%(約54.8万人)へと倍増しています。高齢者の就業率の向上と老後不安から、繰下げ受給を選択する人は今後も増えると考えられます。

 

一方で考えておきたいのが健康リスク。厚生労働省によると、日本女性の健康寿命は平均約75歳。美智子さんが倒れた75歳という年齢は、まさにデータ上でも「自立した生活が送れなくなるリスク」が高まる時期でした。
厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』によると、介護が必要となった主な原因として「脳血管疾患(脳卒中など)」は16.1%を占めています。

 

さらに、公益財団法人生命保険文化センター『2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査』によると、実際に介護にかかった金額は、月平均で8.95万円。在宅介護の平均は4.56万円、要介護3の平均は8.53万円でした。平均介護期間は4.87年。

 

介護生活に伴う経済的負担を、繰下げ受給による増額分が軽減してくれるのは事実です。中田さんの家計が破綻せずに済んでいるのも、月25万円という手厚い受給額があればこそといえるでしょう。しかし中田さんが抱える苦しみは、そうした「金銭的な帳尻」では決して癒やされない性質のものなのです。