(※写真はイメージです/PIXTA)
免許を返納してから大きく低下した利便性
移住から10年。75歳になった佐々木さんは、夜間の運転で対向車との距離感がつかみにくいと感じることが増えました。駐車場では切り返しが多くなり、小さな接触事故も経験します。
「次は人を巻き込むかもしれない」
そう考え、自ら運転免許を返納しました。
「返納そのものは後悔していません。当然の判断でした」
問題は、その翌日から始まりました。スーパーや総合病院までは約5キロ。駅は徒歩圏内ですが、駅前には日常の買い物を済ませられる店がほとんど残っていません。路線バスは1日5本ほどで、最終便は夕方には終わります。タクシーを利用すれば、スーパーまで往復で約4,000円。病院への通院も含めると、交通費だけで毎月3万〜4万円かかる計算です。
恵子さんも免許は持っていますが、73歳になった今、高速道路や夜間の運転には強い不安を感じています。
「私も、あと何年運転できるかわかりません」
「ここは陸の孤島です。車がないと何もできません」
利便性を求め、再度住み替えを考えるなら、東京に戻るというのも有力な選択肢。しかし、実際には現実的ではありませんでした。購入した中古戸建は築年数が進み、査定額は約1,000万円以下。一方、東京近郊の中古マンション価格は移住した10年前より大きく上昇しています。預貯金は、この10年間の生活費や住宅修繕費、車の維持費などで約1,700万円まで減っていました。これらを足したとしても、利便性を備えたマンションは買えそうもありません。
「この10年で、私たちも、故郷も、東京も、大きく変わってしまいました」
「80代を見据えて考えていくと、これからは落ち着いた環境よりも利便性ですね」
内閣府『高齢社会に関する意識調査』によると、高齢者が住み替え先に期待することのトップ3は、1位「買い物が便利なこと」(994ポイント)、2位「医療・福祉施設が充実していること」(967ポイント)、3位「交通の便が良いこと」(916ポイント)となっています。佐々木さんの事例が示すように、高齢期の住まい選びでは、単に静かで落ち着いた環境であること以上に、日々の買い物や通院といった「生活の利便性」を最優先に考慮することが、安心できる老後を維持する鍵となります。
「故郷なら安心だと思っていました。でも安心だったのは昔の記憶だったようです」
隆志さんの免許返納によって、利便性が低下した故郷での暮らし。恵子さんも免許を返納した場合、夫婦で施設に入ることも視野に考えているといいます。