日本の人口激減や高齢者の住み替え意識に関する調査結果が示す通り、老後の住まい選びは人生の明暗を分けます。単に「静かな環境」を求めるだけでは、予期せぬリスクに直面することも少なくありません。地方へUターン移住したものの、ある決断を機に「大誤算」へ陥ってしまった夫婦の事例を見ていきます。
「ここは陸の孤島です」〈年金月25万円〉70代夫婦の地方暮らしが暗転。〈免許返納〉で気づいた「取り返しのつかない大誤算」 (※写真はイメージです/PIXTA)

故郷に戻り「穏やかな老後」を過ごすはずが…

「定年後は、地元に帰ろう」

 

佐々木隆志さん(75歳・仮名)と妻の恵子さん(73歳・仮名)。10年前、隆志さんの定年退職を機に東京から故郷へUターン移住しました。

 

親が他界したのは20年前。最後に故郷へ帰ったのは母親の葬儀でした。それ以降は仕事に追われていたこともあり、帰省する機会もありませんでした。

 

都内で暮らしていたマンションは4,300万円で売却。退職金約2,000万円を合わせた資金で、最寄り駅から徒歩12分の場所にある築18年の中古戸建を2,250万円で購入。諸費用やリフォーム代を差し引いても、手元には約2,800万円の金融資産が残りました。

 

夫婦の年金は現在で月約25万円、手取りで21万円ほど。移住当時の見込みでも、生活費は月20万円で収まる計算でした。


「東京より生活費も安い。十分やっていけると思っていました」

 

ただ一つ、予想していなかったことがありました。それは、故郷そのものが、自分たちの記憶とはまったく違う街になっていたことです。母親の葬儀以来、10年ぶりに街を歩いた佐々木さんは驚きました。

 

駅前商店街はシャッターが目立ちます。昔からあった書店は閉店。銀行の支店もなくなっていました。一方で、車で15分ほど走った幹線道路沿いには、大型スーパーやドラッグストア、ホームセンター、家電量販店、飲食チェーンが立ち並んでいます。街の中心は、駅前からロードサイドへ完全に移っていたのです。


「昔の感覚で、『駅の近くなら便利だろう』と思って家を買ったんですが……でも、生活の中心は駅前じゃありませんでした」

「当時は二人とも車を運転していました。買い物も病院も車で行けば済みます。不便を感じることはありませんでした」

 

総務省『令和7年国勢調査 人口速報集計』によると、日本の総人口はこの5年間で約310万人(減少率2.45%)も減少しました。特に地方の人口減少は深刻で、秋田県(同8.07%減)や青森県(同7.88%減)など、急激に人が失われている地域も少なくありません。佐々木さんが直面した駅前の衰退は、こうした地方の人口激減による「街の縮小」と、車社会化によるロードサイドへの機能集中がもたらした必然的な現実なのです。