(※写真はイメージです/PIXTA)
76歳母「今月もお願いできるかな」が続いた
「今月も厳しくて。お願いできるかな?」
スマートフォンに表示された母親(76歳)からのメッセージを見て、佐伯健一さん(48歳・仮名)はため息をつきました。送金アプリを開き、いつものように5万円を振り込みます。この作業は、もう3年近く続いていました。
首都圏のメーカーに勤務する佐伯さん。月収は58万円、手取りにすると約45万円です。妻はパート勤務で月収8万円。高校3年生の長男と中学2年生の長女との4人暮らしです。
家計には決して余裕がありません。住宅ローンは毎月12万4,000円。教育費は塾代を含めて9万円。食費は8万円、水道光熱費は2万8,000円、通信費は2万2,000円――老後を見据えて夫婦でしていた貯蓄は毎月6万円でしたが、現在は2万円まで減らしています。
その差額の原因は、健一さんの母親への仕送りでした。父親が亡くなった後、実家には母親だけが残りました。年金は遺族年金と自身の基礎年金を合わせて月13万円ほど。築45年の持ち家ですが、固定資産税や修繕費、物価上昇による食費の負担が重なり、生活費は足りないといいます。
最初は「今月だけ」という約束でした。しかし、一度始めた仕送りは終わるきっかけを失いました。
「生活が落ち着くまで――」
その言葉を、母親は何度も口にしました。佐伯さんも返済を期待していたわけではありません。
「返ってこないのは分かっています。でも、送らなければ母は生活できない。その状況で『もう無理』とは言えませんでした」
厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の所得は公的年金が大きな割合を占め、「所得の100%が年金」という世帯が43.4%、「80~100%」という世帯も含めると6割弱に達します。年金制度があるから老後は安心、という前提だけでは生活設計が成り立たない家庭もあり、その不足分が子ども世帯へ移っているのです。
佐伯さんの家庭でも、その影響は家計にはっきり表れていました。3年前には420万円あった金融資産は、現在330万円まで減少しています。大学受験を控える長男の第一志望は私立大学です。合格したら、入学金や初年度納付金まで考えれば100万円を優に超えます。
教育費を削るか、それとも母親への仕送りを減らすか――どちらを選んでも、誰かが困ります。
ある晩、妻が口にした言葉を、佐伯さんは忘れられません。
「私たち、自分の老後のお力を親の老後に使ってるよね」
その瞬間、返す言葉がありませんでした。母親を助けたい気持ちは変わりません。一方で、自分たちも20年後には年金生活に入ります。
「将来、うちの子にも同じことを頼むのかな」