年齢を理由に民間賃貸の入居を断られ、頼みの綱である公的なシニア向け住宅は極端な供給不足で高倍率が続く——。日本の住宅市場には、高齢者が直面する目に見えない「住宅難民」の壁が存在しています。本記事では、事例を通して高齢者の住まいの不安の実態を紐解いていきます。※事例の人物名はすべて仮名です。
「当選したのに、手放しで喜べなかった」年金月13万円の71歳夫婦、公営住宅の抽選に20年かけて〈やっと受かった日〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

20年越しの当選

郵便受けに封筒を見つけたフジオさん(71歳)は、その場で封を切りました。20年間、毎回送り続けてきた都営住宅の当選通知。見慣れた「落せん」の文字が、今回は違いました。

 

「当たった……」

 

妻・アイコさん(71歳)に見せると、アイコさんは少し間を置いてから、泣きはじめました。嬉しくて泣いているのか、別のなにかで泣いているのか、フジオさんにはすぐにはわかりませんでした。

51歳から始まった「恒例行事」

フジオさんはかつて、小さな金属加工の自営業を営んでいました。アイコさんも帳簿を手伝いながら近所のスーパーでパートをしていました。持ち家はなく、ずっと賃貸暮らしを続けてきました。

 

都営住宅の抽選に応募しはじめたのは、フジオさんが51歳のときでした。子どもたちが独立し、夫婦二人には広すぎる2LDKに当時月8万5千円の家賃を払い続けていたのです。「定年になれば収入が減る。せめて家賃だけでも安くしておかないと」。そう考えたフジオさんは、年に数回行われる定期募集のたびに欠かさず応募を続けました。

 

しかし結果はいつも「落せん」でした。都営住宅の抽選倍率は高く、2025年8月に実施された定期募集では全体の平均倍率が48.5倍。人気の地区では百倍を超えることも珍しくありません(東京都住宅供給公社・JKK東京公表データより)。フジオさんが応募し続けた20年間も、似たような状況が続いていました。

 

「来年こそ」と思いながら、当時の賃貸の家賃を払い続けました。自営業を畳んでパートに切り替わり、数年前には年金生活に移行しました。どちらも国民年金のみで、二人の年金を合わせても月13万円。現在住んでいる築35年のアパートの家賃は6万2,000円まで下げたものの、年金収入のほぼ半分が家賃に消えていました。