「長生きリスク」への備えとして、年金受給額を増やせる「繰下げ受給」を選ぶ人が増えています。しかし、受給開始を遅らせるこの制度には、見落としてはならない注意点が存在します。特に、配偶者が亡くなり「遺族厚生年金」を受け取る場合、年金を増やすための我慢が完全にムダになり、かえって大損をしてしまう残酷な現実も……。本記事では、厚生年金を繰り下げた結果、夫の急逝で「5年間の我慢」が水の泡となった72歳妻の事例をもとに、社労士FPの五十嵐義典氏が「遺族厚生年金の調整」について解説します。
5年間の我慢がムダだったなんて…「年金繰下げ受給」を選んだ72歳妻の悲劇。夫の急逝で直面した〈残酷な現実〉【社労士FPが「遺族厚生年金の調整」を解説】
「少しでも年金額を増やしたい」厚生年金の繰下げ受給を選択
マサミさん(仮名・72歳)は、夫のリュウイチさん(仮名・68歳)と二人暮らしです。正社員として働いていた時期もあり、21年ほど厚生年金に加入していました。その後、長いあいだ専業主婦として、リュウイチさんの扶養に入っていました。
そんなマサミさんは7年前、65歳を目前に控え、「年金の繰下げ受給」という制度があることを知ります。
通常、老齢基礎年金や老齢厚生年金の受給開始は65歳ですが、受給するタイミングを遅らせると、1ヵ月繰り下げるごとに0.7%増額した年金を受け取ることができます。また、老齢基礎年金と老齢厚生年金は、それぞれ別のタイミングで受給開始時期を選択できます。
65歳から受給を始めた場合のマサミさんの老齢基礎年金は75万円、老齢厚生年金は40万円、あわせて115万円。月額に直すと約9.6万円です。年金だけで生活していくには心もとないと思いました。
「できるだけ長生きしたいし、少しでも年金額を増やしておきたい。老齢基礎年金はそこそこもらえるけど、老齢厚生年金は少ないから、老齢厚生年金だけでも繰り下げて増やそうかな」
そう考えたマサミさんは、老齢基礎年金は65歳から受給を開始し、老齢厚生年金は5年待って70歳から受給することにしました。
そして5年後。70歳になったマサミさんは老齢厚生年金の受給開始手続きを済ませ、増額した年金を受け取り始めました。もともと40万円だった老齢厚生年金は、42%(0.7%×60ヵ月)増えて約57万円になっています。
わずかな増額とはいえ「待ったかいがあった」と喜びを感じ、「頑張って長生きしよう」と気持ちを新たにしたマサミさん。
しかし、それから2年後、思わぬ悲劇が訪れます。
