「減額されても早く受け取ったほうが安心」と、年金の繰上げ受給を検討するシニアが増えています。世帯貯蓄3,000万円で働くヨシヒトさん(仮名・60歳)も、会社の業績悪化による突然の雇い止めに遭い、慌てて年金事務所へ駆け込んだ一人でした。しかし、窓口で“ある事実”を告げられ、「やっぱり繰上げ受給しません」と申請を直前で思いとどまります。社労士FPの五十嵐義典氏が、繰上げ受給の注意点について解説します。
「繰上げ受給、やっぱりしません」〈貯金3,000万円・月給38万円〉60歳男性、年金事務所の窓口で「年金の繰上げ」を撤回したワケ【社労士FPが解説】
〈貯金3,000万円・月給38万円〉60歳男性が検討している年金の「繰上げ受給」
少し前、定年を迎えたヨシヒトさん(仮名・60歳)。定年のあとも引き続き会社に勤務し、月給は38万円程度・賞与はわずかです。同じく会社勤めの妻・アキコさん(62歳)と暮らしており、世帯の貯蓄は3,000万円ほどあります。
年金受給開始年齢は通常65歳ですが、ヨシヒトさんはそれより前に年金を受け取る「繰上げ受給」に関心を持っています。
「繰上げ受給」とは、60歳0ヵ月~64歳11ヵ月までの任意のタイミングで、通常より早く年金を受け取れる制度のこと。ただし早く受け取る分、年金額は通常より減額となります。
1962年4月1日以前に生まれた方の減額率は月0.5%ですが、令和4(2022)年の制度改正により、1962年4月2日以後に生まれた方の減額率は月0.4%になりました。つまり、繰り上げても減額幅が小さくなったということです。ヨシヒトさんは1966年生まれのため、減額率は0.4%となります。
また、令和8(2026)年4月から、「在職老齢年金制度」についても、その基準額が見直されました。在職老齢年金制度とは、60歳以降も厚生年金に加入しながら働く場合に、給与等の額に応じて老齢厚生年金が調整される仕組みです。基準額が引き上げられたことで、給与が高くても年金がカットされにくくなりました。
ヨシヒトさんの場合、いまから年金を受け取り始めても、給与との合計が基準額を超えず、年金がカットされる心配はなさそうです。
さらに近年、勤務先の経営不振が続いています。
「会社の先行きも、自分の働き方も、この国の制度もどうなるかわからない。繰上げの減額率も緩和されたし、受け取れるうちに早めに受け取っておいたほうがいいだろう」
そう考えたヨシヒトさんは、繰上げ受給を選択することにしました。
突然の雇い止めで無職に…老後不安から向かった「年金事務所」
それから間もなくして、ヨシヒトさんの予感は現実のものとなりました。雇用契約が更新されず、契約満了を告げられたのです。もともと65歳まで働くつもりでしたが、業績悪化による人員削減のあおりを受けました。
「どこかで覚悟はしていたが、やはりか……」
失業することを知ったヨシヒトさんは、さっそく年金事務所へ行き、繰上げ受給の手続きについて教えてもらうことにしました。
職員の説明によれば、受給開始を遅らせる「繰下げ受給」の場合は老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げることができますが、繰上げ受給の場合は両方を同時に繰り上げる必要があるとのこと。また、60歳で繰上げ受給した場合と、繰り上げずに65歳から受給した場合を比べると、累計の受給額が逆転するのはおおむね81歳前後です。
減額後の老齢基礎年金・老齢厚生年金も想定内で、すべて事前に調べていたとおりでした。
予定どおり申請を進めようと思ったヨシヒトさんでしたが、その直後、職員のひと言をきっかけに、繰上げを思いとどまることになります。