(※写真はイメージです/PIXTA)
老後「お金がないこと」よりもツライこと
食費含めた1ヵ月の生活費は、固定資産税を見据えた積立を含めて20万円前後。月々の年金のなかで賄うことができ、さらに貯蓄に回しています。家計に関して、不安は一切ないといっても過言ではありませんでした。しかし、幸福感はありません。
実際、内閣府の「第10回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、日本の高齢者で生きがいを「大変感じている」と答えた割合は22.8%にとどまり、アメリカ(43.5%)やスウェーデン(51.6%)などの欧米諸国に比べて低い水準にあります。一方で、日本の高齢者が生きがいを感じる時としては、「子どもや孫など家族との団らんの時」が53.1%で最も高く、次いで「おいしい物を食べている時」が49.4%となっています。日常のささやかな喜びや家族とのつながりが、幸福感を得るための鍵といえそうです。
浩一さん自身、その意味を痛感していました。
「お金の不安より、生きがいがないほうがつらいですね」
老後20~30年、何のために生きるのか
ある日、恵子さんが言いました。
「もう旅行はいいかな」
浩一さんは驚きました。
「なんで?」
「体がしんどいのよ」
旅は夫婦共通の夢であり、趣味でもありました。「世界を見て回る」という夢を叶えたあとも、年に数回は、国内旅行を楽しもうと話していました。しかし、それすら終わりを迎えていたのです。
近年は健康面の変化も出始めています。浩一さんは高血圧の薬を服用中です。恵子さんも膝痛を抱えています。長時間の移動はむしろ苦行です。
「旅の思い出が人生のピークになってしまった気がするんです」
もう夫婦で旅行は難しいかもしれない、というなかでも、浩一さんは旅行サイトを眺め続けます。旅の最中に撮った写真も何度も見返します。
厚生労働省『令和6年(2024年)の簡易生命表』によると、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.13歳。65歳時点の平均余命は男性が23.63年、女性が28.92年。原則、年金受給が始まってから20~30年近くの老後があるというのが一般的です。
現在、夫婦の金融資産は増え続けています。子どもは独立し、それぞれが家庭を築いています。住宅ローンもありません。老後破産の危険性は高くないでしょう。それでも、浩一さんはこう言います。
「あと20年生きるとして、何をすればいいのかわからない。何を楽しみに生きていけばいいのかわからない……」
旅に代わる何か、果たしてそのようなものは見つかるのか。まるで出口のないトンネルに迷い込んだようだ、と浩一さんは話します。