長寿化が進む日本。年金を少しでも増やし、ゆとりある老後を目指そうと「繰下げ受給」を検討する人もいるでしょう。しかし、配偶者との死別後も繰下げを続けると、不利益を被るケースがあり、問題になっているのをご存じでしょうか。今回は、夫の死後も70歳まで年金受給を先延ばしにした山田さんの事例とともに、遺族年金と繰下げ受給に潜む「落とし穴」と、2028年から予定されている法改正について、CFPの松田聡子氏が解説します。
「え?私の年金、これだけなの?」夫に先立たれた70歳元教員、愕然。5年繰下げれば〈月28万円〉になると信じていたが…年金事務所で知った「衝撃の事実」【2028年の法改正についてCFPが解説】
「請求していない」は通用しない——遺族年金受給権と繰下げの落とし穴
久子さんが直面したのは、年金制度の中でも特に見落とされやすいルールです。
日本年金機構の公式サイトにも明記されていますが、「66歳以後の繰下げ待機期間中に、他の公的年金の受給権(遺族年金など)を得た場合には、その時点で増額率が固定され、その後に手続きを遅らせても増額率は増えない」とされています。
つまり、実際に遺族年金を請求するかどうかは関係ありません。受給する権利(受給権)が発生した時点で、自身の繰下げ増額は強制ストップしてしまうのです。
なお前提として、遺族年金は被保険者(夫)
久子さんの場合、65歳からちょうど24ヵ月が経過した時点で受給権が発生したため、増額率は0.7%×24ヵ月=16.8%で固定されました。その後受給を70歳まで遅らせましたが、増額率はまったく変わっていなかったのです。
また、65歳以上で自身の老齢厚生年金の額が遺族厚生年金を上回る場合、遺族厚生年金は全額支給停止となります。久子さんのケースでは、まさにこれが該当しており、「請求しなくても受給権はある」という状態でした。受給権があるだけで繰下げが止まることを知らなかったがために、その先の待機期間が無駄になってしまったのです。
なお、久子さんのケースでは、70歳での請求時(2026年)から遡って、2023年の遺族年金の受給権発生までが5年以内に収まるため、未受給分はすべて受け取れます(※1)。しかし請求がさらに遅れていれば、5年を超えた分は時効により受け取れなくなっていた可能性もありました。
「夫が亡くなったとき、まず年金事務所に相談していれば……」と久子さんは悔やみます。
配偶者と死別したタイミングで、自分の年金受給にどのような影響が生じるかを確認することが、いかに重要かを示すケースといえるでしょう。
