「ついに1億円を超えました!」――61歳の隆夫さんは、30年以上かけて投資を続けてきました。その積み重ねが、ようやく数字になった瞬間です。しかし喜びに浸る彼を待っていたのは、妻が残していった“まさかの書類”と置き手紙でした。金融資産1億円以上を持つ世帯は全体のわずか3.1%です。世間的には「勝ち組」のはずの彼に、いったい何が起きたのでしょうか。FPの青山創星氏と一緒に見ていきましょう。
「ついに資産1億円突破したぞ!」61歳会社員、歓喜の咆哮…翌週、テーブルにぽつんと残された「置き手紙」。30年越しの夢が砕け散った日【FPが解説】
「高いのはムダ」孫が覚えた口癖、妻がすべてを諦めた瞬間
「結婚30周年だし、久しぶりに温泉でも行かない?」
佳子さんがそう提案したとき、隆夫さんは即座に計算を始めました。
「近場の温泉旅館で1泊3万円。それを投資に回せば年5%で運用できる。10年後には……」
佳子さんは何も言いませんでした。
記念日の外食も同様でした。「家で作れば10分の1で済む」。小学6年生の孫の誕生日プレゼントも「どうせすぐ飽きる。安いので十分」――。
ある日、遊びに来た孫がぽつりと言いました。
「おじいちゃん、いつも"高いのはムダ"って言うね」
「だからね、母の日のカーネーション、買わなかったよ。すぐ枯れるからムダだってママに言ったの」
「……ああ、うん。賢いな」と、隆夫さんは一瞬言葉に詰まりながらも頭をなでました。
横で聞いていた佳子さんは、その瞬間、夫に期待することを完全に諦めました。もう二度と誘わない。温泉も、外食も……。彼女は不満をぶつけるタイプではありませんでした。静かに諦め、静かに離れていく。隆夫さんは、まったく気づきませんでした。
“家族のため”に始めた投資のはずが…いつしか“お金を貯めること”が目的に
若いころの隆夫さんは違いました。
「子どもたちには苦労させたくない」
「大学まで出してやりたい」
そんな温かい動機で投資を始めました。家族を守るために、コツコツと資産を積み上げたのです。そして、子どもたちも希望していた私立大学を卒業し独立、住宅ローンも完済しました。見事に「目的達成」したのです。
しかし、隆夫さんは止まりませんでした。いや、止まれなかったのです。「家族に苦労させない」ための「資産形成」が、いつの間にか「お金を増やす」ための「資産形成」にすり替わっていました。お金を増やすこと自体が目的になっていたのです。
定年が近づき、頼られることも、任される仕事も少しずつ減っていくなかで、唯一コントロールできるのが「資産額」でした。数字だけは、努力に応じて増えていきます。達成感を与えてくれました。1億円という目標だけが、彼を支えていました。
