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悠々自適な老後を送る公務員夫婦だったが…
「私たちの精一杯のお祝いが、あんな風に比べられてしまうなんて思いもしませんでした」
ともに公務員だった加藤正雄さん(72歳・仮名)・恵子さん(70歳・仮名)。周囲から見れば経済的に非常に恵まれた夫婦です。退職金と預貯金を合わせた貯蓄は6,000万円近くにのぼり、年金は夫婦で月35万円。日々の生活費で困ることはなく、公務員OB・OGとして経済的なゆとりを持って老後生活を送っていました。
そんな夫婦にとって、現在の大きな関心事となっていたのが、長男・拓也さん(32歳・仮名)に生まれた長女であり、二人にとっては待望の初孫でした。
その初孫が、初めての桃の節句を迎えることになりました。正雄さんと恵子さんは、長男夫婦と、その妻である美咲さん(30歳・仮名)を誘い、都内のデパートの雛人形売り場で合流しました。
「せっかくの初節句だから、私たちが気に入ったものを買ってあげるよ、と伝えてあったんです」
恵子さんは当時の経緯を語ります。夫婦はあらかじめ予算を15万円と決め、コンパクトながら上質な内裏雛をいくつかピックアップしていました。月35万円の年金収入がある夫婦にとっては、孫のためなら無理なく出せる上限の金額でした。
しかし、売り場で美咲さんと合流した際、事態は正雄さんたちの予想とは異なる方向へ動き始めました。美咲さんは、正雄さんたちが勧める15万円の価格帯のコーナーには目もくれず、別の場所へ歩いていきました。そこにあったのは、有名作家が手がけた、ケースや台座にもこだわり抜かれた50万円を超える高級な雛人形でした。戸惑う正雄さんを前に、美咲さんはスマートフォンを取り出しながら、嬉そうにこう言いました。
「お義父さん、実は私の実家から『初節句の足しに』って、100万円ほど、お祝い金をもらって」
美咲さんの表情には悪気や嫌味は一切なく、純粋に実家からの支援を喜ぶ、ごく普通のトーンでした。続けて美咲さんは、正雄さんたちを気遣うようにこう言葉を添えました。
「なので、お義父さんたちが予算にしてくださっていた15万円は、これの頭金にさせてもらってもいいですか。残りは私の実家のお金から出しますので」
その場にいた正雄さんと恵子さんは、言葉を失いました。
「冗談じゃない、祝い事に対して金額を比べられるなんて」という憤りが湧いたものの、同時に激しい惨めさに襲われたといいます。公務員として真面目に働き、人並み以上の年金を得ている自負がありましたが、会社経営者である美咲さんの実家の財力の前には、自分たちの15万円の奮発が、ただの「頭金」として処理されてしまったからです。