親の介護をきっかけに夫婦の溝が深まり、そのまま法的な婚姻関係だけを維持し続ける「介護別居」。15年間の別居の末に「籍の維持」を突きつけられた男性の事例を通じ、熟年世代で増える長期別居の実態について見ていきます。
「死んでも別れてなるものか」別居15年、62歳妻が放った執念。〈退職金2,000万円〉72歳夫が直面する絶望、厳しい現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

正妻が握る強力な盾

ただ、葉子さんにも事情がありました。高橋さんによれば、葉子さんは「法律上の妻」であり続けることに意味があると考えていると言います。背景にあるのが、遺族年金や相続の問題です。

 

厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)の受給権者平均年金月額は15万1,142円(基礎年金含む)。遺族厚生年金は、その報酬比例部分の4分の3が支給される仕組みで、配偶者の生活を支える重要な収入源となっています。そのため、長年別居していても「法律上の妻」という立場を維持しようとするケースは珍しくありません。

 

もっとも、遺族年金は単純に戸籍だけで決まるわけではありません。実際には、「誰と生活していたか」「生計を共にしていたか」「婚姻関係が実質的に破綻していたか」などが総合的に判断されます。一方で、法律上の配偶者が存在し続けていることは、日本年金機構の審査などでも重要な事情となります。

 

また、高橋さんが気にしているのが、美智子さんへの慰謝料請求です。判例上、夫婦関係が既に破綻した後の交際については、不貞慰謝料請求が認められない傾向があります。ただし、「いつ婚姻関係が破綻したのか」はケースごとの判断となり、単に別居期間だけで決まるわけではありません。

 

現在、高橋さんは将来に備えて遺言書の作成も検討しています。

 

「せめて、自分が亡くなった後に、美智子が困らないようにはしたいんです」

 

熟年世代の長期別居では、財産分与や年金分割、遺族年金、相続など、複数の問題が複雑に絡み合います。一般に、長期間の別居は婚姻関係破綻を示す重要な事情とされ、裁判上の離婚が認められる方向に働くことも少なくありません。一方で、長年にわたり法的な婚姻関係を維持したまま新たな生活を築いた場合、その清算が容易ではない現実もうかがえます。

 

[参考資料]

法テラス『離婚に関するよくある相談』