(※写真はイメージです/PIXTA)
忍び寄る「共依存」の影
「私が倒れたら、2人とも路頭に迷う。あのときは、それしか頭にありませんでした」
都内のIT企業で派遣社員として働く佐藤美沙子さん(53歳・仮名)は、当時の心境を振り返ります。美沙子さんは53歳で月収44万円。一見すると安定した独身生活を送っているように見えますが、その実態は、年金月額10万円で暮らす母親の佐藤和子さん(76歳・仮名)との2人暮らしを長年支える日々に追われていました。
父親が他界して以降、和子さんは精神的にも経済的にも美沙子さんに過度に依存するようになりました。美沙子さんが友人と出かけようとしたり、休日に自分の時間を過ごそうとしたりするたびに、和子さんは激しい言葉をぶつけたといいます。
「私を置いていくの」
「あなたの親なのに、関心がないの?」
厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、2023年、高齢者世帯における「親と未婚の子のみの世帯」は約543万世帯で、全体の20.2%を占めており、昨今は高止まりの傾向にあります。特に子どもも50代を迎える世帯では、外部から見えにくい密室の中で、経済的・精神的な孤立が深まりやすい構造があります。
また和子さんがこれほどまでに娘へ執着した背景には、高齢者が陥りやすい「社会的孤立」と「頼り先の偏り」という構造的な問題があります。内閣府『高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』では、高齢期に配偶者との死別や心身機能の低下を経験した人の中に、近所付き合いや友人との交流が希薄になる傾向が見られます。また、困ったときに頼れる相手として「同居の家族」を挙げる割合が高く、外部とのつながりを失った高齢者ほど、同居家族への心理的・生活的依存が強まりやすい状況がうかがえます。
和子さんからの執着が強まる中、美沙子さん自身も将来への不安が膨らむばかりでした。母親の機嫌をうかがい、自分の人生を犠牲にし続ける日々に、美沙子さんの精神は限界を迎えていました。