(※写真はイメージです/PIXTA)
増額された「月24万円」の年金よりも、妻と歩ける「月17万円」の生活
ミチコさんが車いす生活になってから1年。今までの貯蓄や増額された年金のおかげで、医療費の支払いや自宅のバリアフリー改修、日々の生活費などに経済的な不安はありません。繰下げ受給による月24万円の恩恵は、たしかに夫婦の生活を支えています。
しかし、消えることのない後悔を抱えているというヨシヒコさん。
「もし65歳で仕事を辞めて、月17万円の年金をもらいながら貯金を崩して生活していれば、元気な妻と人生の思い出が作れたのに……」
将来もらえる年金を増やすために、自分たちの人生で一番大切だったはずの「夫婦で元気に動ける時間」を犠牲にしてしまったヨシヒコさん。どれほど悔いても、妻と一緒に歩けたはずの“空白の5年間”は、もう二度と戻ってきません。
年金が増額されても「元気な時間」は買えないという〈残酷な現実〉
ヨシヒコさんのケースは決して特異ではなく、データから見てもシニアが直面し得るリスクであるといえるでしょう。
内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、「健康上の問題で日常生活に制限のない期間(健康寿命)」は、令和4年時点で男性が72.57年、女性が75.45年となっています。これはあくまで平均値であり、ミチコさんのように60代で大きく健康を損なうケースも少なくありません。
平均的に見ても70代前半から半ばには日常生活に何らかの制限が出始めるため、70歳まで働き詰めで年金の受給を遅らせることは、人生の貴重な「自由で元気な時間」を失うリスクがあるとうかがえます。
また、「年金を増やせば老後は安泰」という理論上のメリットとは裏腹に、厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年)」を見ると、令和6年度末時点で70歳の受給権者のうち、実際に繰下げを選択している割合は、老齢厚生年金で4.2%、老齢基礎年金(基礎のみ)で5.5%にとどまっていることがわかります。
この数字の低さから、健康上の不安や「元気なうちに少しでもお金を受け取って使いたい」という現実的な判断を下し、一定数は繰下げ受給を断念していると推測できます。
繰下げ受給による年金増額はたしかに心強い経済的な支えになりますが、どれほどお金が増えても「元気な時間」を買い戻すことはできません。健康寿命という不確実性を前に、目先の金額アップだけにとらわれる危うさを、この事例とデータは示唆しています。
[参考資料]
内閣府「令和7年版高齢社会白書」
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年)」