人生100年時代、受給開始を遅らせて年金を増やす「繰下げ受給」が注目されています。しかし厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、70歳まで繰り下げを選択する人はわずか数%にとどまっています。なぜ、理論上はお得なはずの制度が敬遠されるのでしょうか。関東地方に住むヨシヒコさん(仮名・71歳)も、安泰な老後のために70歳まで働き続け、年金増額に成功しました。しかしその矢先、69歳の妻が車いす生活になってしまったのです。彼は一体、何に対して後悔したのでしょうか。
(※写真はイメージです/PIXTA)
「妻との老後を謳歌するはずが…」70歳まで働き続けた夫の誤算
「お金の不安をなくせば、妻との幸せな老後生活を送れると思っていたんです」
ヨシヒコさん(仮名・71歳)は、妻のミチコさん(仮名・69歳)と関東地方の持ち家で暮らしています。
ヨシヒコさんが現在受け取っている年金は、基礎年金と厚生年金を合わせて月に約24万円。これは、原則65歳の年金受給を70歳まで遅らせる「繰下げ受給」によって、本来の金額から42%増額されたものです。
65歳で定年を迎えた際、ヨシヒコさんがそのまま年金を受け取っていれば、受給額は月17万円ほどでした。しかし、「少しでも長く働いて、もらえる年金を増やせば夫婦の老後は安泰」と考え、再雇用制度を利用して70歳までフルタイムで働き続ける決断を下しました。
「70歳まで頑張って働いて、そこからは増えた年金で妻と老後生活を謳歌する計画でした」
しかし、ヨシヒコさんが70歳を迎えて退職し、いよいよ夫婦の時間を楽しもうと計画を立てていた矢先、思いもよらない事態が起こります。
ミチコさんが重い関節の病気を患い、急激に足腰の機能が低下してしまったのです。進行が早く、現在ミチコさんは外出時には車いすでの移動を余儀なくされ、自宅内の生活でもヨシヒコさんの軽い介助が必要な状態になってしまいました。