(※写真はイメージです/PIXTA)
「俺には孤独しか残らない」思わず背筋が凍った〈同僚のひと言〉
「親を失った喪失感は大きかったけれど、自分には妻や子どもという新しい家族がいたから、何とか立ち直ることができたよ」
その話を聞いた瞬間、タカシさんは背筋が凍ったといいます。もし明日、フミコさんが亡くなったら。家事もろくにできず、自分の家庭も持たない自分には何も残らない。46歳にもなって「母さんがいないと生きていけない子ども」のまま終わってしまう……。
「母がいなくなったらと考えたとき、自分が人間として成長していないことに気づき、危機感を覚えました」
母を見捨てるわけではない、近距離での「新しい親子関係」
その日の夜、タカシさんは「このままだと自分がダメになるのが怖い」とフミコさんに胸中を打ち明け、一人暮らしを宣言。
数日後、フミコさんは寂しそうにしながらも、タカシさんを送り出してくれました。
タカシさんは、決してフミコさんを見捨てたわけではありません。新居は実家から自転車で10分ほどのワンルーム。フミコさんが万が一倒れたときや本格的な介護が必要になった際、すぐに駆けつけられる距離の物件を選びました。現在は週末に実家に顔を出し、一緒に食事をしているそうです。
「自分で家事をするようになって、いかに母に甘えていたかを痛感しています。遅すぎるスタートかもしれませんが、いざというときに母を支えられる『自立した大人同士』としての新しい関係を築いていけたらと思っています」
実家の居心地のよさに甘え、自立を先送りにしてきたタカシさん。自分の人生を取り戻すのに、遅すぎることはないと、その表情は少しだけ誇らしげでした。
データで見る「親亡き後の孤独のリスク」と「自立の意義」
同僚の言葉からタカシさんが抱いた「親亡き後に一人取り残されること」への恐怖は、決して過剰な心配ではなく、データから見てもリスクであると推測できます。
内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)」によれば、孤独感が比較的高い人に対して「現在の孤独感に影響を与えたと思う出来事」を尋ねたところ、「家族との死別(24.6%)」が最も高い割合を占めていることがうかがえます。さらに同調査で配偶者の有無による孤独感の割合をみると、有配偶者で強い孤独感(しばしばある・常にある)を抱えている人が2.7%であるのに対し、未婚者では8.2%と約3倍もの高さに上っていることがわかります。
もし、家事に依存し続け、自分自身の新しい家庭も持たないままフミコさんを看取ることになれば、タカシさんは日常の生活力を失った状態で、計り知れない喪失感と孤立無援の状態に直面することになったといえるでしょう。
内閣府の資料においても、親元から独立せずに生活水準を維持する「パラサイト・シングル」の存在が指摘されていますが、「優しすぎる親」に甘え続けることは、一見親孝行のように見えて、実は子どもの「生きる力」を奪い、将来的な孤独・孤立のリスクを高めかねません。
46歳にして実家を出て、近距離で互いを見守る「自立した大人同士」の関係を築こうとするタカシさんの決断は、いずれ必ず訪れる「親亡き後」の共倒れを防ぐための、現実的な選択であったといえるでしょう。
[参考資料]
内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)」
内閣府「結婚行動の経済分析(2025)」