婚姻期間が20年以上の夫婦の離婚である熟年離婚。妻が切り出す主なタイミングは3つ。定年退職後、退職金が振り込まれたタイミングで離婚を切り出されたある男性のケースをみていきます。
「もう、あなたといる理由がありません。」〈退職金3,000万円〉が振り込まれた直後、57歳妻、おしどり夫婦の仮面を脱ぎ捨てた理由。31歳娘と周到すぎる清算の舞台裏 (※写真はイメージです/PIXTA)

妻たちが離婚を切り出す「3つのタイミング」

神田さんが気づかなかった最大の誤算は、妻と子どもたちの間に築かれていた、自分を排除したコミュニティの存在でした。

 

厚生労働省が発表している「人口動態統計の年次推移」によると、同居期間が20年以上のいわゆる「熟年離婚」の件数は、近年高止まりの傾向をみせています。妻側が熟年離婚を切り出す主なタイミングは3つあります。

 

まず1つ目は、「子どもが自立したタイミング」。子育てという共通の目的が終わることで、夫婦が一緒にいる大義名分が失われます。

 

2つ目は、「配偶者が退職したタイミング」。夫が毎日自宅にいる生活が始まることで、妻側の精神的負担が限界に達するケースです。

 

3つ目は、「自力で収入を得られるようになったタイミング」。パート収入の蓄えや、今回のように財産分与によって当面の生活費が確定する時期を指します。

 

今回の美智子さんのケースは、まさにこの3つの条件が完全に揃った瞬間を狙ったものでした。

 

「妻と娘は、何年も前から私がいない時間帯に、弁護士と相談を進めていたようです。娘は『お母さんがどれだけ我慢してきたか、お父さんにはわからない』と言いました」

 

長女の陽子さんは、母親が長年抱えていた夫からの精神的な孤立や、家庭内での不満をすべて共有していました。経済的に自立している陽子さんが母親をサポートすることで、美智子さんは離婚後の生活不安という最大のハードルをクリアすることができたようです。

 

内閣府『男女共同参画白書 令和4年版』で夫婦関係が破綻した原因を見ると、男女ともに「性格の不一致」が一番多く、女性で57.6%、男性で69.6%と、6〜7割となっています。また女性の場合は「精神的な暴力」が29.8%と続きます。

 

一般的に「性格の不一致」だけでは、夫が拒めば即座に離婚するのは困難。だからこそ妻側は弁護士を立て、周到な準備を進めます。強硬な態度や、別居強行による「婚姻関係の破綻」の実績作りを突きつけられると、夫側は精神的に抗いきれなくなり、最終的に合意(協議離婚)せざるを得ない状況へ追い込まれるケースが多いのが実情です。

 

「定年後、家族のいる生活が当たり前のように続くと思っていました。しかし、離婚を切り出されて初めて気づいたんです。そういえば妻と老後の話をしたことはなかったなと。私の老後のイメージは、独りよがりなものでした」

 

神田さんは、弁護士を交えた数ヶ月の交渉の末、最終的に妻側の要求を受け入れ、離婚が成立しました。当初は拒むことも考えましたが、完全に家庭内での居場所を失い、要求をすべて受け入れる決断をしたといいます。