かつての「終の棲家」は、代々引き継ぐ実家を指していました。しかし現代では、子どもに負担をかけないための「終活」として、自宅を売却して施設へ入る「完全移住」も選択肢の一つとなっています。特に、潤沢な資金を持つ層ほど、「ここが最期の場所」と決めて高額な施設へ飛び込む傾向にあります。ですが、一度入居してしまえば、そこには「退路」がないことも……。予期せぬトラブルで「ここにはいられない」と気づいたとき、高齢者たちが直面する現実とは? ※人物名はすべて仮名です。
「最期くらい贅沢したい」全財産“8,000万円”をつぎ込んで、築古マイホームから高級老人ホームへ引っ越した80歳夫婦…入居1年後に起きた〈大惨事〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

入居1年後、平穏を切り裂く「再会」

しかし、入居からちょうど1年が経過した春、事件は起きました。

 

共用ラウンジでピアノ演奏に耳を傾けていたナツコさんは、隣に座った一人の女性と目が合い、全身の血が逆流するような感覚に襲われました。

 

それは60年以上前、高校時代のナツコさんを執拗にいじめ、不登校寸前まで追い込んだ主犯の同級生でした。当時の面影はありましたが、その女性はいま、入居者たちのあいだで「品のある素敵な方」と慕われる人気者になっていたのです。

 

動悸に震えるナツコさんは、意を決して後日、彼女に声をかけました。

 

「……あなた、〇〇高校の、Aさんでしょう?」

 

ところが、返ってきたのは残酷な反応でした。

 

「あら、まあ。素敵なブローチですね。どこでお買いになったの?」

 

女性は、軽度の認知症を患っており、過去の悪行どころかナツコさんの存在すら完全に忘却していたのです。ナツコさんの精神状態は急速に悪化しました。

 

相手はなにも覚えていない「無垢な老人」として、毎日ナツコさんに笑顔で挨拶をしてきます。ナツコさんにとっては、それがなによりの拷問でした。

 

イチロウさんは施設側に部屋の変更やゾーニングを相談しましたが、返答は満足のいかないものでした。「お相手の方は現在、非常に穏やかに過ごされており、他の方とのトラブルもありません。過去の個人的な記憶に基づいて特定の方を遠ざけるのは、施設の運営規程上できかねます」というのです。

入居前にはわからない老人ホームの落とし穴

精神的に追い詰められたナツコさんの姿をみて、イチロウさんは断腸の思いで決断を下します。

 

「ここにいては、ナツコの心が壊れてしまう。退去しよう」

 

株式会社LIFULL senior(LIFULL 介護)の『介護施設入居実態調査 2025』では、老人ホーム探しで重視する項目として興味深いデータが出ています。

 

スタッフの質・雰囲気:32.4%

すぐに入居できるか:32.2%

医療体制:28.2%

入居者の雰囲気:24.2%

 

施設の外観や設備は、内覧でいくらでも確認できます。しかし、実際に入居してみなければわからないのが「入居者同士の人間関係」というリスクです。

 

全財産ともいえる8,000万円という資産を背景に、最上の環境を手に入れたはずの夫婦。しかし、彼らが直面したのは、どんなに高額な費用を払っても「他人の過去」までは買い取れないという厳しい現実でした。さらに、2,000万円のうち、償却期間の計算によって、戻ってきたのは1,500万円弱。1年で500万円以上が消えました。以前の家はすでに売却済み。一度高級施設を知った二人ですが、いまさら築古のアパートに移ることに。

 

「まさかこの年齢になって、過去のトラウマに怯えることになるとは思いもしませんでした。お金を払えば『平穏』が買えると思っていたのは、私たちの傲慢だったのかもしれません」

 

今後の住まいを決めた二人の背中は、どこか寂しげでしたが、同時に「自分たちの平穏は自分たちで守る」という強い意志も感じられました。

 

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