(※写真はイメージです/PIXTA)
「理想の子育て環境」を求めて決断した地方移住
「将来、子どもができたら自然豊かな環境で育てたい。それが夫婦共通の夢でした」
都内のIT企業でエンジニアとして働いていた小林大輔さん(36歳・仮名、以下同)は、3ヵ月前まで、妻(31歳)の地元である地方都市への移住計画を意欲的に進めていました。
当時の大輔さんの月収は約38万円。東京での生活に大きな不満があったわけではありませんが、多忙な日々に追われるなかで、「土日の休みくらいはのんびりと過ごしたい」という思いが強くなり、「将来的に子育てのことを考えたら、地方で暮らすのもありかもしれない」と考えるようになったといいます。
そのなかで選択肢にあがったのが、妻の地元でした。妻の父親は数年前に他界しており、実家には母親の美津子さん(65歳・仮名、以下同)が一人で暮らしていました。
移住の相談をした際、美津子さんは大喜び。「実家の敷地内にある離れをリフォームして住めばいい。家賃もかからないし、寂しくなくていいわ」と提案してくれました。大輔さんは長年勤めた会社を退職。離れを自分たち好みにリフォームして、新生活をスタートさせたのです。
移住初月、大輔さんが直面したのは「プライバシー」という概念の不在でした。美津子さんの住む母屋と、大輔さん夫妻の離れはわずか数メートルの距離です。
「驚きました。朝の7時に、義母が合鍵を使ってリビングに入ってくるんです。『お味噌汁を作りすぎたから』と、寝室のドアのすぐ外で声をかけられました」
大輔さんは困惑し、妻を通じて「入る前には連絡がほしい」と伝えてもらいました。しかし、美津子さんの態度は変わりませんでした。
「義母は『家族なんだから水臭い。鍵をかけるなんて、私を泥棒扱いするのか』と憤慨したそうです。それ以来、私が仕事から帰宅する際も、玄関を開けるとすでに義母がソファに座ってテレビを見ていることが日常になりました」
大輔さんの就職先は、東京時代よりも年収が下がったものの、その分残業は少ないはずでした。しかし、家での安らぎが奪われたことで、大輔さんの精神状態は次第に不安定になっていきました。
厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、世帯構造の年次推移において核家族化の進行は顕著です。1954年に約772万世帯あった「三世代世帯」は、2024年には約186万世帯にまで激減しました。一方で、同時期の「核家族世帯」は約804万世帯から約3,067万世帯へと大幅に増加しています。
こうした核家族を前提としたライフスタイルの定着に伴い、現代の子育て世代は、たとえ親族間であっても適切な距離感を保ち、互いのプライベート空間や時間を強く重視する傾向にあります。良かれと思った親世代の干渉が、大きなストレスを招く結果も珍しくないのです。