離婚や困窮を理由にした、成人した子の「出戻り」。事情を察して再同居がスタートするパターンが多い一方で、決して同居はしないというケースもあります。娘の出戻りをあえて拒絶したある母親の事例を通し、高齢期の親が守るべき“境界線”について考えていきます。
「おかえり。でも、帰ってくれるかな」〈年金月13万円〉75歳母、孫を連れて離婚出戻りの43歳娘を拒絶した理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

統計にみる「高齢親の経済余力」の限界

高橋さんのように、高齢になっても自身のライフスタイルを大切にし、子との再同居を避けるケースは少なくありません。国立社会保障・人口問題研究所『第9回世帯動態調査』によると、18歳以上の子供がいる65歳以上の高齢者のうち、子と同居している割合は男性で37.5%、女性で42.8%にとどまり、前回調査から低下しています。

 

また、健康なうちは子との同居を回避し、自立を志向する高齢者が増えていることもデータから示唆されています。
かつては「困ったときは実家へ」が当たり前でしたが、現代では物理的な距離を保つことで、互いの生活を尊重し合う関係性が求められています。親は親、子は子として適切な距離感を保つことが、良好な親子関係を維持する秘訣といえるでしょう。

 

実際、親世代に子供を援助する経済的な余力は乏しいのが現実です。厚生労働省『2023(令和5)年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の平均所得は318万3000円(※注:最新値に合わせ調整)で、全世帯平均(545万7000円)を大きく下回ります。生活意識でも59.0%が「苦しい」と回答しており、年金受給世帯の半数近くは所得のすべてを年金に依存しています。親の年金頼みの同居は、互いの生活をさらに困窮させるリスクすら孕んでいるといえるでしょう。

 

「冷たいと言われればそれまでです。でも、私は私の人生を最後まで自分で何とかしたい。娘を助けるために、自分が我慢し続けるのは違うのではないでしょうか」

 

悦子さんは、金銭的な援助については、自身の葬儀費用として残している100万円の中から、当座の引越し費用として20万円を貸し付けるに留めました。また、一緒に役所へ行き、公的なひとり親支援制度の活用などを相談したといいます。

 

拒絶のあの日から、志保さんとは時折、孫を連れて遊びに来る程度の距離感を保っています。悦子さんの生活は、以前とほぼ変わらないといいます。

 

「もしあの時、情に流されて同居していたら、私は四六時中イライラしていたかもしれません。娘も私の小言に反発したでしょう。別々に暮らしているからこそ、孫が遊びに来たときに心から『可愛い』と思える。お互いのプライバシーを尊重できる環境が大切なんです」