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誰も悪くない、だからこそ逃げるしかなかった
じっくりと話し合える長期休暇のたびに、実家の今後について話を振ってきた美由紀さん。ある大型連休の前にも、「これからの生活のために、家を売却して高齢者向け住宅を検討してほしい」と改めて和子さんに頭を下げました。しかし、和子さんから返ってきたのは「お前は家を売った金で自分だけ楽をしたいのか。お父さんに申し訳ないと思わないのか」という言葉でした。
「何度言っても『お父さんに申し訳ない』のひと言。私は母のために、自分の結婚も、人生も後回しにして支えてきたつもりなんですが……」
内閣府の『令和5年度高齢社会対策総合調査』によると、60歳以上の高齢者のうち「住み替えの意向がない」と答えた人は全体の約7割(69.6%)にのぼります。理由として「面倒だから(19.6%)」や「家族の同意が得られないから(3.7%)」といった現状維持を選択する声も目立ちます。
長年住み慣れた実家は、和子さんのように「亡き家族との思い出」そのものであり、子世代からの提案を心理的に拒絶してしまうケースは少なくありません。
また、住み替えの意向があっても実現できない理由のトップは「資金不足(33.1%)」、次いで「情報不足(13.5%)」「新しい環境への不安(13.5%)」と続きます。
さらに見逃せないのは家族関係の問題です。単身世帯以外の高齢者では、住み替えができない理由として「家族の同意が得られない」「家族の介護・看病がある」という回答が単身世帯を大きく上回っています。同居家族間での意見の不一致が、住み替えの大きな障害になっていることが分かります。
「母を一人にすることに罪悪感はあります。でも私が出ていくことで、母はようやく、この家をどうすべきか真剣に考えるようになると思うんです。母に新しい生活を選んでもらうための、私なりの最後の一手なんです」