高齢化の進行に伴い、親が長年暮らした「実家への執着」を巡る親子の確執が表面化しています。思い出や先祖代々の土地を守りたい親と、老朽化する家の維持や介護の現実に直面する子供。誰も悪くないはずの「家への想い」が、いつしか子供を縛る重荷となり、共倒れを招くケースは少なくありません。今回は、実家に縛られる母との関係に限界を迎え、決断を下した女性の事例から、家族のあり方を考えていきます。
「お母さん、ごめんなさい。もう二度と帰りません」〈月収38万円〉53歳娘、〈年金月13万円〉76歳母を実家に置いていった切実理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

誰も悪くない、だからこそ逃げるしかなかった

じっくりと話し合える長期休暇のたびに、実家の今後について話を振ってきた美由紀さん。ある大型連休の前にも、「これからの生活のために、家を売却して高齢者向け住宅を検討してほしい」と改めて和子さんに頭を下げました。しかし、和子さんから返ってきたのは「お前は家を売った金で自分だけ楽をしたいのか。お父さんに申し訳ないと思わないのか」という言葉でした。

 

「何度言っても『お父さんに申し訳ない』のひと言。私は母のために、自分の結婚も、人生も後回しにして支えてきたつもりなんですが……」

 

内閣府の『令和5年度高齢社会対策総合調査』によると、60歳以上の高齢者のうち「住み替えの意向がない」と答えた人は全体の約7割(69.6%)にのぼります。理由として「面倒だから(19.6%)」や「家族の同意が得られないから(3.7%)」といった現状維持を選択する声も目立ちます。

 

長年住み慣れた実家は、和子さんのように「亡き家族との思い出」そのものであり、子世代からの提案を心理的に拒絶してしまうケースは少なくありません。

 

また、住み替えの意向があっても実現できない理由のトップは「資金不足(33.1%)」、次いで「情報不足(13.5%)」「新しい環境への不安(13.5%)」と続きます。

 

さらに見逃せないのは家族関係の問題です。単身世帯以外の高齢者では、住み替えができない理由として「家族の同意が得られない」「家族の介護・看病がある」という回答が単身世帯を大きく上回っています。同居家族間での意見の不一致が、住み替えの大きな障害になっていることが分かります。

 

「母を一人にすることに罪悪感はあります。でも私が出ていくことで、母はようやく、この家をどうすべきか真剣に考えるようになると思うんです。母に新しい生活を選んでもらうための、私なりの最後の一手なんです」