人生100年時代といわれるなか、老後資金の不安を解消する手段として「年金の繰下げ受給」が一つの選択肢とされています。受給開始を遅らせることで受取額を増やす制度ですが、その複雑さが思わぬ落とし穴を生むケースも少なくありません。将来への備えが裏目に出てしまったある男性の事例を通し、知られざる年金制度の注意点を探ります。
5年待った、でも、意味なかったな…「年金月25万円」に増額のはずが無効。70歳男性、年金事務所で知った「理不尽な年金ルール」 (※写真はイメージです/PIXTA)

制度の落とし穴と「遺族年金」の優先原則

厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢厚生年金の受給権者のうち、繰下げ受給を選択する人は約54万人で、全体の1.9%。割合としては少数ですが、この5年で倍増しています。高齢者の就業率が上昇するなか、山田さんのように「働いているうちは受給せず、額を増やす」という選択をする人は、今後も増えていくでしょう。

 

そのようななかで見落としがちなのが、山田さんも直面した「繰下げができないケース」です。

 

原則として、66歳に到達する日より前に遺族年金等を受け取る権利を有した場合は、老齢年金を繰り下げて受給することができません。

*65歳に到達する前に遺族年金等の受給権を失っていた場合は、老齢年金を繰り下げることができます。

出所:日本年金機構ホームページ

 

妻を亡くした時点で遺族厚生年金の受給権が発生していた山田さんは、最初から繰下げ受給ができない条件に該当していました。しかし、年金は自ら請求しなければ受け取れないため、こうしたルールを知る機会がないまま5年が過ぎてしまったのです。

 

――なんと理不尽な!

 

こうした不満の声を受けてか、法改正により、2028年4月からは遺族厚生年金の受給権があっても、実際にその請求をしなければ、老齢厚生年金の繰下げ請求が可能になる予定です。これにより、遺族年金と老齢年金の有利なほうを選択する余地が広がるとされています。

 

制度の改善は一歩前進といえますが、山田さんのように「良かれと思った選択」で失われた時間は取り戻せません。老後を支える年金制度。その舵取りを誤らないためには、家族構成や過去の受給権まで含めた、正しい知識のアップデートが求められます。

 

 

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