遺族年金は「昭和モデル」でつくられた制度――逆転現象が起きる理由

泰子さんと七恵さんが感じた「やりきれなさ」は、単なる感情論ではありません。実際に、働いて保険料を納め続けた人よりも、専業主婦だった人のほうが、年金の額が多くなるケースがあるのです。特に泰子さんと朋代さんが受け取っている遺族年金は、保険料を払ってこなかった人が多く受け取れる仕組みになっています。

亡くなった夫が会社員や公務員だった場合は、妻は遺族厚生年金を受け取れます。遺族厚生年金の額は、夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3が基準となるため、夫の収入が高かった朋代さんのような場合は、その額も大きくなるのです。

泰子さんのように自分の老齢厚生年金がある場合、遺族厚生年金は全額上乗せされるわけではありません。まず自分の年金が全額支給され、遺族年金の額がそれを上回る場合に、その差額だけが加算される仕組み(併給調整)です。自分の老齢厚生年金が高いほど、受け取れる遺族厚生年金は少なくなる、あるいはゼロになる場合もあります。

一方、専業主婦だった朋代さんには、自分の厚生年金がありません。そのため、夫の遺族厚生年金を全額受け取れます。自分の老齢基礎年金と合わせると、受取額が共働きだった妻を上回るケースもあるのです。

なぜ、このような仕組みになっているのでしょうか。この遺族年金や、専業主婦の保険料を免除する「第3号被保険者制度」は、高度経済成長期の「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という標準世帯モデルを前提に設計されました。稼ぎ頭の夫が亡くなれば、収入源を失った妻は生活が立ち行かなくなります。経済的に弱い立場の専業主婦を守ることが制度の目的でした。

しかし、時代は変わり、今や共働き世帯は専業主婦世帯を大きく上回っています。制度の設計と社会の実態のズレが、「不公平」という批判につながっています。実際に2026年現在、ようやくこの制度の縮小や見直しに向けた議論が本格化しています。