金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)」によれば、60代世帯の金融資産保有額は平均値こそ2,028万円ですが、より実態に近い中央値は700万円にとどまります。この平均と中央値の間には1,000万円以上もの開きがあり、さらに同調査では、資産を「保有していない(貯蓄ゼロ)」と回答した世帯が21.0%にのぼることが示されています。定年退職したカツミさん(仮名)は、まさにこの「貯蓄ゼロ」の現実に直面することになりました。家計を預かってきた妻はなににお金を使っていたのでしょうか。事例をみていきます。
「実は、貯金は1円もありません」…61歳専業主婦妻と“39年間すれ違っていた常識”。年金月19万円・65歳夫、開いた口が塞がらない〈家計の真実〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

「いい料理には、いい食材が必要だった」

カツミさんは開いた口が塞がりませんでした。借金があるわけではない。しかし、定年というゴールに辿り着いたとき、手元に残ったのは「退職金のみ」という、まったく予期せぬ現実でした。

 

「アキナ、うちはそんなに無駄遣いをしていたのか?」

 

「無駄遣いなんてしてない。ご飯だって、美味しい料理を作るには、いい食材を揃えなきゃいけないの。 産地がはっきりした野菜や、化学調味料を使っていない調味料、質のいいお肉。そういうものを選んで、家族の健康を守るのが私の役割でしょ」

 

アキナさんのこだわりは、食費だけに留まりませんでした。

 

「安物買いの銭失い」を嫌い、調理器具はプロ仕様、洗剤は環境と肌に優しいもの、寝具は睡眠の質を上げるために質のいいもの。アキナさんはそれらを贅沢ではなく、家族のQOLを維持するための「必要な投資」だと考えていました。

 

「あなたが一生懸命働いてくれているんだから、その分、家の中だけは一番いい状態にしてきた。だから、毎月の給料やボーナスを無理に貯金に回していまを我慢するより、家族を豊かにすることに使った。だって、最後にはこの退職金が手に入るんだから、帳尻は合うでしょう?」

 

アキナさんにとって、貯蓄は「積み上げるもの」ではなく、「最後に退職金で補填されるもの」という認識でした。彼女なりの論理で、夫に不自由をさせず、娘を育て上げ、快適な住環境を維持してきた。その結果が、この通帳の数字だったのです。

 

カツミさんは、自分がこれまで享受してきた豊かな食生活や心地よい暮らしが、将来のための貯蓄を削ることで成り立っていたことを、結婚39年にして、初めて知ることになりました。

夫婦における「お金の前提」の乖離

カツミさんとアキナさんの事例は、夫婦間の「家計管理におけるゴールの違い」が表面化したものです。

 

実際、二人以上世帯で金融資産を保有していない(貯蓄ゼロ)世帯は、全年代で一定数存在します。カツミさんのように「平均的な年収」であっても、日々の生活コストが高い場合、資産形成が進まないまま定年を迎えるケースです。

 

カツミさんは「余った分は貯金されているはず」と自分の常識を当てはめ、アキナさんは「入った分で家族にいい生活を提供し、最後は退職金で帳尻を合わせる」という自分なりの責任を果たしました。もし、カツミさんもアキナさんと同じように、「老後の蓄えは退職金だけでいい。それまではいまの暮らしを謳歌しよう」という価値観を持っていたとしたら、この「貯金ゼロ」という事実は問題にすらならなかったでしょう。

 

極論をいえば、夫婦が同じ金銭価値観を共有していれば、どのような支出の形であっても家庭内の不和は生まれません。カツミさんの衝撃は、自分が享受してきた「豊かさ」の正体が、自分が想定していた「将来の安心(貯蓄)」を原資にしていたことを知らなかった点にあります。

 

いまさらこれまでの家計をやり直すことはできませんが、幸いにも手元には1,500万円という原資があります。いまのQOLを維持した場合、1,500万円は何年持つのかを数字で共有する。「なにを削り、なにを残すか」を夫婦で対等に話し合う。アキナさんの家事力を、これからは「安価な食材で満足度を最大化する」方向へシフトしてもらう。――このように、これからともに過ごす老後の計画の立て方はさまざまあります。

 

どちらかが一方的に悪いのではなく、「任せきり」と「抱え込み」が続いてしまったことが今回の結果を招きました。1,500万円の退職金は、二人が新しい生活価値観を築くための、初めてで最後のチャンスといえるでしょう。

 

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