(※写真はイメージです/PIXTA)
老後の生活、夫と妻の金銭感覚の違い
長年勤めた中堅企業を定年退職したカツミさん(65歳)のもとに、会社から振り込まれた退職金は1,500万円。年金は、妻アキナさん(仮名/61歳)が65歳にまるまでのあいだ、月額19万円を受け取ることができます。
「これにこれまでの貯金を合わせれば、老後はそれなりの生活が送れるはずだ」
カツミさんの現役時代の年収は、ピーク時で700万円ほど。決して高収入ではありませんでしたが、一人娘を大学まで出し、年に一度は家族旅行にも行っていました。家計は結婚と同時に家庭に入った妻のアキナさんに任せ、自分は仕事に邁進してきました。
しかし、これからの老後について具体的に妻と相談しようと切り出したカツミさんに対し、アキナさんの反応は想像と大きく異なるものでした。
「実は、貯金は1円もありません」
「長いあいだお疲れさまでした。退職金、1,500万円! やっぱり嬉しいね! これでこれからの生活も安心ね」
夕食のあと、アキナさんはお茶を淹れながら、晴れやかな顔でカツミさんにいいました。カツミさんも「ああ、ようやく一区切りだな」と、これまでの会社生活を振り返り、安堵の息を漏らしました。
「それで、アキナ。今後の生活費の取り崩し方なんだが……この退職金に、いまの貯金を合わせれば、月々どれくらいのゆとりが出るか計算してみたいんだ」
カツミさんがそう切り出すと、アキナさんは不思議そうな顔で首を傾げました。
「いまの貯金って……? 1,500万円もあるのに? これだけあれば十分でしょう」
「いや、もちろん1,500万円は大きいけれど、これはあくまで退職金じゃないか。それとは別に、君に任せてきた月々の給料やボーナスの積み立てがあるだろう。学費も払い終えたし、最近のボーナスも結構残っているんじゃないかと思って」
「……? あれは全部、日々の生活のために使い切ってるよ。だって、退職金が出ることはわかっていたでしょ。なんでわざわざいまの生活を切り詰める必要があるの?」
カツミさんは、持っていた湯呑みを置きました。
「……使い切っている? まったく残っていないのか?」
「うん。毎月、あなたの給料で収まるように生活をして、足りないときはボーナスで補填してきたから」
アキナさんの表情には、悪びれる様子も隠しごとをしている様子もありませんでした。むしろ、家庭を守る主婦としての役割を完璧にこなしてきたという、ささやかな自負さえ感じられました。