高年齢者雇用安定法により、60歳以降に会社に勤め続けることは可能になりました。しかし、定年の延長でそれまでと変わらない待遇が保証されているケースは、まだまだ少数派といえます。処遇の変更に納得できず、長年勤めた会社を辞めてしまう人も少なくありません。本記事では、CFPの松田聡子氏が、勤務先による定年後の待遇にプライドを傷つけられた60歳の元工場長の事例をもとに、「60歳の壁」の乗り越え方を解説します。
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「俺の30年は何だったんだ」…屈辱の〈年収4割減〉に退職届を叩きつけた60歳工場長。失業給付が切れる前、追い詰めながら決めた「まさかの再就職先」【CFPの助言】
「60歳の壁」は想像以上に高い。データで見える賃金減の現実
和夫さんのような状況を表す言葉に、「60歳の壁」というものがあります。
厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」によれば、60歳から64歳の転職者の60.9%が賃金減少を経験しており、そのうち53.9%は1割以上の減少となっています。
「60歳の壁」が発生する要因として、転職市場における「そもそも60代を採用しようとする企業が少ない」という供給側の制約が挙げられます。特にホワイトカラー・管理職系の求人は希少です。
和夫さんのように管理職・専門職としてのキャリアを積んできた人ほど、中小企業では「過剰スペック」とみなされ、希望する給与水準との折り合いがつかないことが少なくありません。
一方、元の会社での継続雇用はどのような実態なのでしょうか。
高年齢者雇用安定法の義務化により、企業の99.9%が65歳までの雇用確保措置を実施済みです(令和7年「高年齢者雇用状況等報告」厚生労働省)。しかしその内訳をみると、「継続雇用制度(再雇用)の導入」が65.1%で最多を占め、「定年の引上げ」は31.0%にとどまります。
つまり多くの会社では、定年後は一度退職して再雇用という形が主流であり、その際の職種変更や賃金の大幅削減は制度上、許容されているわけです。和夫さんが告げられた「倉庫管理・年収400万円」は、会社が法の枠内で設定した処遇といえます。
和夫さんの場合、年収400万円の再雇用を拒否して転職した結果、年収320万円の警備員という着地点になりました。年間で約80万円のマイナスが5年間続けば、差額は400万円に上ります。退職金を取り崩さずに済んでいるのは、「不幸中の幸い」ともいえるでしょう。
