同じ特養で、同じように介護を受けているはずなのに、利用料に大きな差がある――。そんな違和感を覚えた74歳女性。調べて初めて知ったのは、施設の利用料が変わる「まさかの原因」でした。介護費用の仕組みに潜む、知られざる落とし穴は、意外と知られていません。FPの三原由紀氏が詳しく解説します。
「貯金が多いほうが損するなんて」…同じ特養なのに施設料「年80万円以上の差」に唖然。年金月12万円・74歳女性が嘆く“貯蓄の壁”という落とし穴【FPの助言】
年金額はほぼ同じはずなのに…施設利用料が違う理由とは
帰宅後、敬子さんは施設から渡されていた資料を改めて見直しました。そこで、ようやく理解したのが、「負担限度額認定」という制度の中身です。
特別養護老人ホームでは、食費や居住費について、一定の条件を満たす人には自己負担の上限(負担限度額)が設けられ、超えた分は介護保険から補填される仕組みがあります。
この制度には、大きく2つの「関門」があります。ひとつは所得の関門——世帯全員が住民税非課税であること。もうひとつは資産の関門——預貯金等が一定額以下であること。収入が少なくても、貯蓄が多ければ対象外になります。どちらか一方でも満たさなければ、軽減は受けられません。
つまり、収入が少なくても、資産が多ければ対象外になることがあります。敬子さん夫婦は、所得の関門はクリアしていました。しかし、長年積み上げてきた2,100万円という貯蓄が、資産の関門に引っかかりました。
令和6年(2024年)8月以降の現行制度では、軽減対象となる所得の低い世帯でも、夫婦の預貯金上限はおおむね1,650万円以下。敬子さん夫婦の貯蓄2,100万円はこれを大きく上回り、軽減対象外(第4段階)と判定されたのです。
「年金で決まるものだと思っていました。でも、そうじゃなかったんですね……。年間で計算すると80万円以上、5年続けたら400万円以上も差がついてしまう」
敬子さんは、そう複雑な表情を浮かべます。
特別養護老人ホームは、もともと住民税非課税世帯など低所得者層を支える役割を持つ施設でもあります。そのため、多くの入所者が何らかの軽減措置の対象となる層に該当すると考えられます。
つまり、制度としては合理的である一方で、”平均的に準備してきた人ほど対象外になりやすい“という側面も持ち合わせています。
「先々のためにと思って貯めてきたお金が、こういう形で影響するとは思っていませんでした」
収入を軸に考えがちな老後の負担設計ですが、特別養護老人ホームの食費や居住費の軽減では「資産」も判定に影響します。その線引きは段階で区切られており、ほんの少しの差で負担が大きく変わることもあるのです。
なお、令和8年(2026年)8月からは食費の基準費用額が1日100円引き上げられ、軽減対象者(第3段階)の食費自己負担額も一部増額される予定です(厚生労働省)。一方、低所得者(第2段階)の食費は据え置きとなるため、軽減対象者の間でも負担の差は今後さらに広がる見込みです。