FIREで得られる「自由」の正体とは

増田さんの転職活動は順調に進み、幸運にも別の会社で営業職として再出発できました。かつてはあんなにうんざりとしていた満員電車に揺られながら、増田さんは「会社員って最高だな」と感じたといいます。

FIREの自由はあくまで「会社からの自由」。人生そのものから自由になれるわけではないのです。むしろ、家事や子育てを一人で抱え込まなくていい。介護も姉と分担できる。保育園も問題なく利用できる——。会社に縛られていると思っていたけど、実は社会の仕組みの中に守られていたんだと気づいたといいます。

ただ、増田さんは「FIREは失敗だった」とは言いませんでした。

「あの2年がなかったら、妻がどれだけのことをしてくれていたか、一生わからないままだったと思います」

再就職した日の夜、増田さんは妻に「18年間、ありがとう」と伝えました。妻は一瞬きょとんとして、それから笑ったそうです。以来、家事の分担を二人で自然に話し合えるようになり、以前よりずっと風通しのいい関係になったといいます。FIREの前と後で、家計の数字は元に戻りました。でも夫婦の関係だけは、良い意味で元には戻りませんでした。

増田さんの経験から学べる教訓をまとめます。

・FIREは「会社からの自由」であり、「人生からの自由」ではない。家事に終業時刻はなく、親族の期待も「働いていない人」に集中する。

・保育園など社会制度は「就労」前提で設計されており、FIRE後の投資家は行政の視点からはこどもの面倒を見れる人。

・突発出費は4%ルールの想定外であり、計画を一瞬で狂わせる。

・そもそも年280万円は税引前の概算に過ぎない。売却益課税(約20.315%)、国民健康保険・国民年金、住民税の「1年遅れ請求」、暴落時に備える生活防衛資金などを差し引けば、手取りは200万円前後まで落ち込む可能性が。子育て世帯には極めて厳しい水準である。

退職後の生活は、自由であると同時に新たな責任が生まれます。税・社会保険料を織り込んだ現実的な資金計画、家族との対話、社会制度の確認……。

そして何より、「本当に自分が望む生活とは何か」を見つめ直すことが、後悔しない選択につながるのです。

ファイナンシャルプランナー
青山創星

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