50歳以上になると、毎年誕生月に届くねんきん定期便の内容が変わり、年金の受給をより具体的に考えられるよう、受取方法による受給額の比較などが記載されます。しかし、そこに表示されている受給額がそのまま受け取れるかというと、そうとは限りません。特に、60歳以降も働き続けている場合、実際の支給額が大幅に少なくなるケースも。本記事では、Aさんの事例とともに、「在職老齢年金」や「特別支給の老齢厚生年金」といった年金制度の注意点について社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
じゃあ、ねんきん定期便に書いてある「114万円」はなんだったのか…年金受給手続きを行った67歳再雇用の男性、ガッカリ。「9万円」しか支給されなかったワケ【FPが解説】
特別な年金をもらいに、年金事務所へ
Aさん「特別な年金ってなんだ?」
Cさん「俺たち、昭和34年生まれだろ? 昭和36年4月より前に生まれた人は、64歳から特別な年金を受け取れるんだよ」
寝耳に水で、Aさんは驚きを隠せません。
Aさん「知らなかった……まだ間に合うのか?」
Bさん「たしか年金は5年が時効だから、まだ間に合うはずだよ」
Aさん「でも俺、繰下げ受給だからもらえないんじゃないのか?」
不安を口にすると、Cさんが続けました。
Cさん「これは『繰下げ』とは別物だから、いまからでも請求できると思うよ」
Aさん「そうなのか! 早速行ってみるよ」
そういって、Aさんはその場でネットから年金事務所の来訪予約をとりました。
年金額は114万円ではなく、「9万円」だったワケ
そして迎えた当日。保管していた数年前のねんきん定期便を事前に確認すると、年金受給見込額は「114万円」と記載されています。
「100万円以上受け取れるなんて、すごい臨時収入だな。なにに使おうか……」緩む口元を抑えて年金事務所に行ったのですが、“衝撃の事実”が判明します。
職員「試算では、Aさんの年金は年額約9万円となります」
Aさん「えっ、ちょっと待ってください。どういうことですか?」
“特別な年金”の落とし穴
「9万円って……。じゃあ、ねんきん定期便に書いてある114万円はなんだったんだよ」とAさんはショックを隠せません。
特別支給の厚生年金とは、老齢年金の報酬比例部分を、64歳から前倒しで受け取れる制度です。しかし、職員によれば、Aさんは65歳まで現役で働いていたため給与が高く、「在職老齢年金制度」によって年金が支給停止となっていたようです。この制度では、働きながら年金を受け取る場合、一定の基準額を超えると年金が全部または一部停止されます。
Aさんが64歳だった2023年度(令和5年度)の在職老齢年金制度の基準額は、48万円でした。当時のAさんの給与(月額換算)が56万円、本来の年金月額が9万5,500円(年額114万6,000円÷12)だったため、そこから年金額を計算すると、次のようになります。
【支給停止額の計算式】
(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 48万円)÷ 2
【Aさんの実際の計算(調整後の年金受給月額)】
9万5,500円 -(9万5,500円 + 56万円 - 48万円)÷ 2 = 7,750円
※計算結果の月額7,750円を12倍した「年額9万3,000円」が受給額。
つまり、ねんきん定期便には「年額114万円」と記載されていても、実際に受け取れる金額は、支給停止によって年額約9万円にとどまってしまったのです。
一方、同級生たちは60歳定年で給与が下がっていたため、在職老齢年金の支給停止がほとんど発生せず、満額に近い年金を受け取れていたようです。
Aさんは「100万円の臨時収入が入る」と期待していただけに、「なんだ、ぬか喜びか」と肩を落としてしまいました。
