セカンドライフとして、豊かな自然に囲まれた「地方移住」を夢見る人は少なくありません。しかし、配偶者の一方にとっての理想の老後が、必ずしももう一方にとっての理想と同じとは限らないのが現実です。本記事ではAさんの事例とともに、夫婦のすれ違いが招くライフプランの崩壊リスクについて、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説していきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
私は行きませんから…3年かけて「地方移住」の準備をしてきた退職金2,000万円の60歳定年夫、下見から帰宅していよいよ決行という矢先。妻から放たれた「衝撃の一言」【FPが解説】
夫はいつだって「事後報告」でした
Aさんは現在63歳。大学卒業後、大手企業に就職しました。仕事が最優先で残業が当たり前。定時で上がれる日があっても、顧客や上司等との接待で、帰宅は深夜になる毎日でした。疲れていても栄養ドリンク片手に休むことなく働くことが、当時のサラリーマンとしてのステータスでもあったのです。
子育てや家事は専業主婦の妻に任せっきりでしたが、家庭内の重要事項の決定権は夫であるAさんが握っていました。住宅購入や車の買い替え、家族旅行の企画など、Aさんは「そろそろだな」と独り言のようにつぶやくと、次に発する言葉は「いい物件があって決めてきたぞ」「取引先から勧められたんだ」などと妻に相談もなく決めてきました。
そんなAさんも60歳で定年退職を迎え、役職もなくなり再雇用で働くことに。給与は定年前の約半分まで下がり、働き方もだいぶ変わっていきます。
世間ではすでにワークライフバランス(仕事と家庭の調和)が叫ばれ、心身の健康と労働生産性の向上の相乗効果によって人生を充実できる社会へと移行していました。Aさんの会社でもノー残業デーが週に2日設定されるなど、働き盛りのころとはガラッと環境が変化。アフター5の流れも大きく変わり、飲みに行く機会も減って、早く帰宅する日が増えていきました。
再雇用後の「セカンドライフの提案」
帰宅時間が早くなったある日、Aさんは「退職金は2,000万円くらい入ったし、子どもたちはすでに独立した。老後は地方に移住でもして、のんびり畑仕事でもしようか」と妻の前でつぶやきました。しかし、妻は聞こえていないのか、それとも聞こえないふりをしているのか、返答することなく聞き流していました。
Aさんは仕事の合間をぬい、3年ほどかけて地道に地方移住準備を進めます。いくつか候補地がみつかったため下見に妻を誘うも、つれない様子です。仕方なくAさんは一人で現地を視察し、いよいよ「ここだ」と決めた物件の資料を帰宅後に妻へみせました。「ここで暮らそう」と話すと、妻の口から出たのは、思いもよらない一言でした。
「私は行きませんから」