「帰ればいつでも迎えてくれる場所」として、多くの人が拠り所としている“実家”。しかし、高齢親にとっての実家は老いと戦いながら維持し続けなければならない「生活の拠点」です。内閣府「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」によれば、別居している子と「月に1回以上」接触がある高齢者は約半数。この「疎遠な時間」が積み重なったとき、親子間の関係は変容していることも……。今回は、年金暮らしを送る親と自由奔放な子との“実家をめぐる衝突”をみていきます。
玄関の鍵が替えられていた…「もう、あなたの帰る家はない」年金月19万円の60代夫婦、3年ぶりに実家へ帰ってきた36歳息子に突きつけた〈冷ややかな宣告〉と実家の現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

連絡不精の息子が、数年ぶりに帰省した“切実な理由”

都内の中小企業に勤めるリョウタさん(仮名/36歳)。大学進学を機に地元を離れて以降、実家とは距離を置いた生活を続けてきました。現在は独身で、都内の賃貸マンションに一人暮らし。仕事や交友関係を優先し、帰省は数年に一度あるかないかという程度でした。

 

両親との関係が悪いわけではありません。ただ、母親から「元気?」とメッセージが届いても、すぐに返信せず、思い出したらたまに「大丈夫」「忙しい」と短く返す程度でした。電話がかかってきても出ないことが多く、折り返すこともほとんどありません。自分から近況を詳しく伝えることはなく、必要以上に関わろうとはしませんでした。父親とも特別な会話はなく、どこか「干渉されない楽な関係」として距離を保っていました。

 

一方で、困ったときは実家に戻ればいい、自分の都合を優先しても、最終的にはどうにかなる――そんな甘えがあったのも事実です。

 

3年ぶりの実家

そんなある日のこと。彼女にも振られ、仕事のトラブルも重なったリョウタさんは自暴自棄になり、「体調の問題で、しばらく仕事休みます」と上司にメッセージを送ると、高速バスに揺られて3年ぶりに地元へ降り立ちました。

 

深夜の閑静な住宅街。懐かしいはずの家の前に立った息子は、少しだけ安堵した表情を浮かべます。

 

しかし、カバンから取り出した実家の鍵を差し込もうとした瞬間、手を止めました。鍵が刺さらないのです。

 

「……あれ? 鍵、替えたのか?」

 

古いディスクシリンダー錠だったはずの玄関には、見慣れない最新式の電子錠が取り付けられていました。仕方なくインターホンを押すと、廊下の奥から母が歩いてくる気配が。「あ、俺おれ。鍵替えたの? 開けてくんない?」すると、母は玄関の向こうから言いました。

 

「開けません。もう、あなたの帰る家はない」