新しい住宅が次々と建つエリアでも、ときおり「え?」と一瞬驚くような古い家が残っているのを目にすることはないでしょうか。もちろん事情はさまざまでしょう。しかし、老朽化が進んだ住宅は倒壊や火災といった安全面の不安を抱えやすく、周囲から心配の声が上がることも少なくありません。今回は、都内の好立地にありながら廃墟のような状態の家で暮らし、生活に困窮していた高齢者の事例から、受けられる公的支援の具体例などについて、CFPの松田聡子氏が解説します。
え、あそこに人が住んでるの?…東京23区・閑静な住宅地に佇む“ほぼ廃屋”の「ボロボロ一戸建て」。土地の価値は〈1億円超〉なのに、年金わずか月6万円・69歳家主が「決して手放さない」ワケ【CFPの助言】
高齢になるほど選択肢は減る——FPからの具体的アドバイス
Aさんのように孤立し、身動きが取れなくなった場合、どのような解決策があるのでしょうか。
このような状況に置かれた高齢者に対して、最初の窓口として機能するのが地域包括支援センターです。介護・生活・住まいにまたがる複合的な相談を無料で受け付けており、民生委員の訪問をきっかけとして接続できるルートでもあります。
生活保護の申請が難しいAさんのようなケースで、まず検討すべきは「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」です。
この制度は、一定の居住用不動産(評価額概ね500万円以上)を持ち、この制度を利用しなければ生活保護の受給が必要と福祉事務所が認めた65歳以上の高齢者を対象に、不動産を担保として生活資金を貸し付けるものです(各都道府県社会福祉協議会が窓口)。
自宅に住み続けながら毎月の生活資金を受け取ることができ、借受人の死亡後に不動産を処分して返済する仕組みになっています。貸付限度額に達した後も要件を満たせば生活保護に移行できます。家を手放さずに済み、生活資金も確保できる可能性がある制度として、福祉事務所や地域包括支援センターへの相談をおすすめします。
公的制度と並んで検討に値するのが、民間金融機関によるリバースモーゲージです。自宅を担保に銀行から融資を受け、毎月の返済は利息のみ。借受人の死亡後に不動産を売却して元本を一括返済する仕組みで、複数の金融機関が取り扱っています。生活費として幅広く使える商品もあり、公的制度より柔軟に活用できる場合があります。
また、Aさんがいつまでも今のまま一人で暮らし続けられるかといえば、現実的には難しいと考えられます。自立した生活が難しくなれば、いずれ介護施設やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)への入居を考えなくてはなりません。そのとき、土地の売却資金はそのまま入居費用や生活費に充てることができます。
「家を売る=思い出を手放す」という感情的な抵抗感は十分理解できます。しかし「施設に入るため」ということは、売却は「生き続けるための資産活用」として前向きに捉え直せるのではないでしょうか。
そして最も重要なのは認知症が進んだり、要介護状態になったりすると、不動産売却などの法律行為が本人の意思では行えなくなるというリスクです。そうなれば、家族も行政もサポートが難しい状態に陥ります。民生委員が扉を開いた今この瞬間が、Aさんが自分の意思で未来を選べる、最後のチャンスかもしれません。
松田聡子
CFP®