新しい住宅が次々と建つエリアでも、ときおり「え?」と一瞬驚くような古い家が残っているのを目にすることはないでしょうか。もちろん事情はさまざまでしょう。しかし、老朽化が進んだ住宅は倒壊や火災といった安全面の不安を抱えやすく、周囲から心配の声が上がることも少なくありません。今回は、都内の好立地にありながら廃墟のような状態の家で暮らし、生活に困窮していた高齢者の事例から、受けられる公的支援の具体例などについて、CFPの松田聡子氏が解説します。
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え、あそこに人が住んでるの?…東京23区・閑静な住宅地に佇む“ほぼ廃屋”の「ボロボロ一戸建て」。土地の価値は〈1億円超〉なのに、年金わずか月6万円・69歳家主が「決して手放さない」ワケ【CFPの助言】
「億の資産」を持ちながら"貧困"に陥る構造
Aさんのように「資産はあるが、現金がない」という高齢者は、都市部ではそれほど珍しくはありません。
Aさんが家を手放せない最大の理由は、妻との思い出です。40年以上を共に過ごした家はAさんにとって単なる資産ではなく、妻の面影が染みついた場所であり、自分たちが生きてきた「証し」のようなものです。
加えて、長年の孤立が判断力を鈍らせている側面もあります。「思い出を手放すこと」への心理的な抵抗に加え、高齢になるほど引越しの精神的・体力的ハードルは上がり続けます。誰にも相談できないまま、時間だけが過ぎていくのです。
しかし、個人の感情だけで済まされないのが現実です。老朽化した家屋の管理が著しく不十分で周囲に危険を及ぼす状態であれば、自治体の独自条例や建築基準法に基づく是正措置の対象となることがあります。
自治体からの指導や命令に従わなかった場合、行政が強制的に修繕や解体を行う「行政代執行」となり、その費用は所有者に請求されます。支払えなければ、高価な土地そのものが差し押さえられることになりかねません。
厚生労働省「被保護者調査」年次調査(2023年)によると、生活保護の受給者は全国で約199万人。そのうち65歳以上が約87万人と、全体の約44%を占めています。
しかし、Aさんは生活保護というセーフティーネットも利用できません。生活保護の申請には、所有する資産をすべて生活費に充てることが原則として求められるため、時価1億円もの不動産がある状態では、まず受給は認められないからです。
「不動産はあるが、現金がない」という高齢者は、厳しい状況に追い込まれてしまうのです