(※写真はイメージです/PIXTA)
理想の生活スタートから1年ですでに破綻危機
念願のタワマン生活は、まさに夢のようでした。しかし、入居から1年が過ぎたころ、カナミさんは家計簿をみて不安になることが増えました。
計算外だったのは、物件の価値ではなく、その維持費と生活水準のインフレでした。わかっていたことですが、タワマン特有の高額な管理費や修繕積立金、さらに各階ゴミ回収などのサービス料が毎月重くのしかかります。そしてなにより、ロビーですれ違う住人たちの服装や、エレベーターでみかける子どもたちの習い事。周囲のレベルに合わせようと、知らず知らずのうちに交際費や教育準備金が膨らんでいきました。
「ローン自体は返せています。でも、貯金がまったくできないんです。義父が完全に引退して収入がなくなれば、私たちの負担はさらに増える。もしいま、私が育休に入って年収が下がったら……」
資産価値が高い家を手に入れた満足感の一方で、二人の家計は一切の失敗が許されない、綱渡りのような状態に陥っていました。
資産価値とキャッシュフローのジレンマ
都内のタワマンは流動性が高く、将来売却する際も値崩れしにくい傾向にあります。そのため「資産価値があるから大丈夫」という理屈は、投資の観点では間違っていないでしょう。しかし、今回の事例が示すのは、資産価値が高いことと、日々の生活が豊かであることは必ずしもイコールではないという現実です。
まず、親子リレーローンや50年ローンという選択は、家族全員の「未来」を担保に入れる行為です。ゴウさんが完済を迎えるのは88歳。つまり、現役時代から老後に至るまでの約半世紀、高い住居費を払い続けることが確定してしまいます。リスクを抱える期間が長すぎるのです。たとえ物件の価値が高く維持されていても、価値が高い時期に売却しない限り、その恩恵を日々の生活で享受することはできません。
また、住宅ローンの返済額だけでなく、「タワマンという環境」がもたらす支出増も見逃せません。豪華な共有施設や高いサービスレベルを維持するためのコストは、年数が経過するごとに修繕積立金として上昇するリスクを孕んでいます。これに加えて、周囲の住人層に合わせたみえない同調圧力による支出増が、じわじわと家計のキャッシュフローを蝕んでいくのです。
ゴウさん夫婦のように、「もうこの家しか考えられない」という強い情熱は、時として複雑な金融商品を組み合わせることで、予算を大きく超えた物件への扉を開いてしまいます。
確かに都内のタワマンは、資産防衛としての側面を持っています。しかし、そのために「自由なキャリア選択」や「予期せぬリスクへの備え」を犠牲にしては本末転倒です。住宅購入において最も大切なのは、物件価格の妥当性以上に、「そのローンを背負った状態で、自分たちの理想とするライフスタイルが維持できるか」というシビアな収支シミュレーションにほかなりません。
理想の家が、自分たちの人生をより輝かせるのか、それとも足をすくってしまうのか。その境界線は、契約書にサインする前の、冷静なキャッシュフロー判断にかかっています。