厚生労働省「人口動態統計」によると、1981年以降、長らく日本人の死因の第1位は「がん」となっています。がん患者をはじめ、一般病棟では十分なケアが難しい患者を対象に行われる「緩和ケア」ですが、実は緩和ケア病棟に入院するまでには、我々が想像する以上に高いハードルが立ちはだかっているようです。高島亜沙美氏著・西智弘氏監修『人生の終わり方を考えよう 現役看護師が伝える老いと死のプロセス』(KADOKAWA)より、緩和ケア病棟の実態について解説します。
「余命3ヶ月以上」は入れない…全150万床に対し、わずか1万床の狭き門「緩和ケア病棟」。“ひとまず空いたベッド”で最期を迎えるがん患者の現実と、経営上の切実な裏事情 (※写真はイメージです/PIXTA)

緩和ケアと「病院経営」は相性が悪い

くわえて、経営上の問題もあります。緩和ケア病棟は、医療機関の一部ですので医療で利益を発生させないといけません。

 

どこの医療機関でも合言葉のように言われていると思いますが、基本は早期退院。病院は、患者さんを早期退院させるほど利益が上がるようになっています。これは緩和ケア病棟でも同じです。そのため、入院期間が大体1ヶ月ほどの緩和ケア病棟が多いのではないでしょうか。それ以上患者さんを入院させておくと、利益が出なくなってしまうからです。

 

これは、緩和ケア病棟を終の住処にしようと考えていた人には寝耳に水、ですよね。そのため、緩和ケア病棟で疼痛コントロール、これから起こり得ることへの精神的なケア、家族や関係者への説明や指導などがおこなわれ、最後は自宅で過ごすという人が多いでしょう。

 

予後が3ヶ月以上ある人は、入院打診の段階でお断りされているケースがほとんどです。なぜなら、その人を入院させても、利益を出すことができないから。

 

ひどいと思われるでしょうが、患者さんのための医療であると同時に、病院も経営していかなくてはならないという上での判断となります。緩和ケア病棟になかなか入院できないという声を聞きますが、こういう事情があるからなのです。

多くのがん患者が「空いているベッド」で亡くなっている

このような背景から、実際には緩和ケア病棟で亡くなっている患者さんは少なく、がん患者さんであっても多くが一般病棟で亡くなっています。一般病棟には、いろんな科がありますので、必ずしも専門領域の病棟に入院できるとは限りません。

 

高齢社会で病院のベッドはいつも満床に近い状態です。そのため、ひとまずベッドが空いている病棟に入院することがスタンダードになっている医療機関もあるでしょう。消化器の病気だけど、ベッドが空いてないので耳鼻科の病棟に入る、というようなことです。

 

緩和ケア病棟には緩和ケアや疼痛コントロールに精通したスタッフがいますが、一般病棟には原則いません。がんなのに入院した先の病棟にがんのプロがいないといった事態はザラにある、ということです。

 

こういうところも、この国が死の質を高く保てない理由のひとつだと思います。

 

 

高島 亜沙美

看護師/保健師