失って初めて気がついた「誰でもできること」ではなかったという現実

和子さんが亡くなってからというもの、安田さんの生活は驚くほどのスピードで荒廃していきました。

まず直面したのは、「モノの場所」がわからないという現実です。訪れた弔問客にお茶を出そうにも、どこに茶葉や湯吞がしまってあるのかがわからない。急須の扱いにも戸惑い、まともにお客様をもてなすこともできません。

家事を一切してこなかった安田さんは、家電を操作することもありませんでした。洗濯機のボタン操作、洗剤の量、入れる場所すらわかりません。説明書を探し出すのにも一苦労です。

ゴミ出しの日を把握していないため、家中にゴミが溜まっていきます。掃除はどこから手をつけていいかわからず、気づけば部屋は荒れ放題になっていました。

さらに困ったのが、役所や銀行の手続きでした。年金、保険、公共料金、税金……何をどこに連絡すればいいのか、まったく見当がつきません。

安田さんは、自分の年金額こそ把握していましたが、通帳や印鑑の保管場所もわかりません。妻が管理していた預金口座の暗証番号も、当然知るわけもありません。

確かに経済力はありましたが、それを使ったり管理したりするスキルが完全に欠けていたのです。