“自分は金融に詳しい”が招いた落とし穴

田島さんが選んだのは、トルコリラを原資産とした仕組債でした。「仕組債」とは、デリバティブ取引を組み合わせた金融商品で、原資産の価格が一定の範囲内であれば、比較的安定して高い利回りが期待できるという特徴があります。

株式のように日々価格が上下する商品は選びませんでした。値動きの大きさに一喜一憂するのは、老後の生活と相性が悪い。そう思っていたからです。

一方の仕組債は、預金の延長線上にある比較的安全な商品だという認識だったといいます。デリバティブが組み込まれていることも、為替リスクがあるということも、知識としては理解しているつもりでした。銀行でも取り扱われていた商品で、高金利通貨への投資自体は自分自身でも経験がありました。

政治や金融政策に不安要素があることは承知していましたが、一定のレンジ内で推移する限りは問題ないと思っていたといいます。

「リスクについては知っていましたが、為替が大きく崩れる事態は起こることはまずないだろうと。知識があったからこそ、そう思い込んでしまっていた部分があるのかもしれません」

ところが、現実は想定と大きく異なりました。

当時のトルコリラは、政策金利や政情不安の影響で急落し、数千万円単位の損失を被るケースが相次いでいたのです。田島さんも例外ではなく、約1,500万円を投じた仕組債が、数年で評価額400万円台にまで下落し、結果的に1,100万円近い損失となりました。

「妻に告白するのが一番つらかったですね。知識を持っていた上で自分で選択したわけですから。元銀行員として面目丸つぶれ。恥だと思いました」

そう振り返る田島さん。老後資金の多くを失ったあと、田島さんは収入を得る手段を探しました。元銀行員で、FP資格もある。そう思って始めた個別相談でしたが、現実は厳しく、相談料を支払ってくれる人はほとんどいませんでした。

現在は、金融教育を行う団体から声がかかると、家計管理や老後資金について話をしています。報酬はわずかで、生活を支えるほどではありません。それでも、自分の失敗が誰かの役に立つなら、そう考えて引き受けているのです。