日本の社会保障制度の根幹を支える公的年金制度。しかし長引く物価高騰と実質賃金の伸び悩みにより、かつての「標準的な老後」のイメージは崩れ去ろうとしています。現役時代に真面目に働き、十分な年金を受け取っている人たちでさえ、想定以上のインフレによって生活基盤が脅かされるケースは少なくないようです。
「これが一生懸命働いた結果か…」年金月18万円・76歳元サラリーマン、物価高で「1日2食」の極貧生活。スーパーの半額シールを奪い合う日々に流した涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

「真面目に働けば老後は安泰」という神話の崩壊

1950年生まれ、佐藤健治さん(76歳・仮名)。地元工務店で40年以上働き、現在は妻・和子さん(73歳・仮名)と2人暮らしです。ちょうどコロナ禍に70代となり、「年齢的にもう仕事をしなくても」と考え、現役を引退したといいます。

 

佐藤さんの年金受給額は月18万円と、標準的な水準。結婚以来、専業主婦として2人の子どもを育て上げた和子さんは、月8万円。合わせて月26万円(手取りで月23万円弱)が、夫婦の生活を支えています。

 

「現役のころは、年金保険料さえ払っていれば、老後は安心だと思っていました。今のように年金不安がいわれ始めたのは、自分が50代になってからかな。でも、今ほど深刻ではなく、気づいたときにはもう60代。定年を迎えたら少しは楽ができると思っていましたが、甘かったですね」

 

夫婦で月26万円の年金があれば、慎ましく生きていくには十分と考えていましたが、昨今の相次ぐ値上げが、高齢者の生活を直撃しています。

 

「以前は月3万円でやりくりできていた食費が、今は同じものを買おうとすると4万~5万円近くかかります。固定資産税や保険料、医療費も重くのしかかり、結局、削れるのは自分たちの食費しかありません」

 

少しでも出費を抑えるため「1日2食」の生活を続けているという佐藤さん。朝昼兼用でプラス夕食というスタイルです。「年寄りだから目が覚めるのが早くて、起きるのは朝4時、5時くらい。それからお昼前までがお腹が空いて大変だよ」と苦笑します。

 

そして夕食。食材を買うと余らせてしまうので、スーパーで総菜を1つ、2つ買うのが定番だといいますが、そのスーパーも最近は「戦場」と化しています。

 

「夕方くらいになると、総菜コーナーに店員さんがシールを手に現れるのですが、それを何人もの高齢者が待っているんです。シールが貼られた瞬間に手が伸びる。私も必死ですよ。わずか数十円の割引のために、他の方と商品を奪い合うような形になって――ふと虚しくなります。ここにいる人はみんな、一生懸命働いてきた人たちなんだろうな。それなのに、こんな結果になるなんて……そう思うと泣けてきます」

 

佐藤さんは、かつて抱いていた「穏やかな老後」とのギャップに苦しんでいます。貯蓄もありましたが、数年前に佐藤さんが大病を患った際の入院費や治療費で大きく目減りしてしまいました。

 

「子どもたちには迷惑をかけたくない。あの子たちは、あの子たちで大変だからね。でも、このまま物価が上がり続けたら……いつまで持ちこたえられるか分かりません」