同居後に起きた“想定外の変化”

都内の自宅の一室を母の個室として整え、引越し当日。妻や孫たちに囲まれた賑やかな食卓に、山村さんは「これで母も安心できる。自分も親孝行ができた」と、胸をなでおろしていました。

ですが、母親の様子は少しずつ変わっていったのです。

ある日、スーパーへ買い物に行こうとする母に、山村さんは何気なく声をかけました。

「お金は俺が出すから、必要なものがあれば何でも言ってよ」

母は一瞬、言葉を失い、力なく笑ってそれ以上何も言わなくなりました。

かつて母は家計を預かり、自分の判断で買い物をしていました。それが今では、何かを買う度に、息子の許可を得るような感覚に陥っていたのです。

「お世話になってるんだから、迷惑をかけないようにしないと」

それが母の口癖になりました。台所に立とうとすれば妻に気を遣い、リビングに居れば孫の勉強の邪魔かと自室に引きこもる。母の居場所は、わずか数畳の個室だけになっていきました。

さらに、追い打ちをかけたのが「孤独」でした。

近所付き合いが当たり前だった田舎とは違い、都会のマンションでは隣人の顔も知りません。挨拶をしても怪訝な顔をされることすらあります。

畑仕事も、近所の寄り合いも、すべてを失った母の居場所は家の中だけになっていき、一日中テレビの前で小さくなって過ごすようになりました。

「帰る場所」を失ったという後悔

実家は売ったものの、先祖代々の墓は地元に残したままです。お盆が近づいたある夜、母がぽつりとこぼしました。

「私、あのお墓にちゃんと入れるのかしら。家を売って、近くでお墓を守る人がいなくなっちゃった。お父さんにも申し訳なくてね……」

墓参りに行く気力も体力も衰えた母にとって、「自分の帰る場所」を失ったという後悔になっているように感じられました。

「迷惑をかけてはいけない」という思いに縛られ、息子の家庭に気を遣いながら縮こまって生きる母。小さくなっていく母の背中を見て、山村さんは自問します。

「母を救ったつもりで、母の人生を奪ってしまったのではないか」
「これで、本当によかったのか……」