FPが指摘する「元気な今だからこそ」やっておくべき3つの備え

喜美代さんのような一人暮らし高齢者には、今のうちに準備しておくべきことが3つあります。

1.地域包括センターで「見守りサービス」に登録
喜美代さんは現在元気で自立していますが、一人暮らし高齢者の見守りサービスへの登録をおすすめします。

ほとんどの自治体に地域包括支援センターが設置されており、一人暮らし高齢者の見守りサービスの利用が可能です。有料の場合もありますが、多くの場合、自治体の助成が受けられます。定期的な電話や訪問で安否確認をしてもらえるほか、何かあったときの第一発見者になってもらえるので安心です。

また、一度利用すれば顔つなぎができ、将来介護が必要になったときに相談しやすくなります。詐欺や悪質商法の相談、介護予防教室などの情報も得られます。

2.家族信託の検討 ―認知症になってからでは遅い
喜美代さんの資産は貯金1,000万円と持ち家です。認知症になった場合、預金が凍結されたり、不動産の売却ができなくなったりするリスクがあります。そこで考えておきたいのが、家族信託です。

家族信託は、高齢者などが特定の目的(介護等に必要な資金の管理など)に従って、資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。家族に管理を託すので、任意後見のような高額な報酬は発生しません(契約時に手続きにかかる費用などが数十万円程度かかります)。

喜美代さんの場合、長男の泰久さんを受託者(託された財産管理をする人)にすることが考えられます。現在は海外在住ですが、定年(60〜65歳)までに帰国する可能性が高く、帰国後は物理的にも管理しやすくなります。

ただし、家族信託の契約には当事者の判断能力が必要なため、喜美代さんが認知症になってからではできません。そのため、活用を前向きに検討しているのであれば、契約を先延ばしにせず、早めに専門家などに相談するとよいでしょう。

「まだ元気だから大丈夫」ではなく、「元気な今だからこそ」準備が必要なのです。

3.介護費用を意識しておく
喜美代さんは現在、貯金を取り崩さずに生活できています。しかし、介護が必要になった場合、費用のうち足りない部分は貯金から補てんしなければならないでしょう。

生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯](2024年度)」によれば、介護期間の平均は4年7ヵ月、月額平均費用は9万円、一時費用の平均は47.2万円で、総額は約542.2万円です。

月13万円の年金から介護費用9万円を引くと、生活費は月4万円。持ち家でも厳しい金額です。貯金1,000万円から補填することになりますが、医療費も別途必要です。

健康リスクが顕在化する前に、以上のような準備をしておけば、将来について過度に悲観的になる必要はありません。家族と物理的に離れていても必要なときには頼れる関係を保てれば、親子ともに幸せな関係を続けていけるでしょう。

松田聡子
CFP®