「忙しいから、便りがないのは元気な証拠」そう自分に言い聞かせ、親の本当の暮らしから目を背けてはいないでしょうか。本当に深刻なときほど、親は子どもにSOSを出せないものです。その親心に甘え、現実を知ろうとしなければ、待っているのは取り返しのつかない後悔だけかもしれません。行政や専門家の手を借りてでも守るべきものとはなにか。ある家族の遅すぎた気づきからの学びをFPオフィスツクル代表・内田英子氏が解説します。※本記事で取り上げている事例は、複数の相談をもとにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から一部脚色を加えて記事化しています。読者の皆さまに役立つ知識や視点をお届けすることを目的としています。個別事例の具体的な取り扱いは、税理士・弁護士・司法書士など専門家にご相談ください。
「年金がないから無理だ」築45年・雨漏りする“ゴミ屋敷”で孤独死した78歳男性…疎遠な娘による遺品整理、畳の下から〈束になった1万円札〉が出てきたワケ【FPの助言】
400万円は「なかった」のではなく「使えなかった」
Aさんの父のケースでは、医療や住宅修繕など、適切なサービスにつながれなかった問題であると同時に、父自身が「これから先をどう生きるか」を描けなくなっていった過程で起こった悲劇ともいえます。
畳の下からみつかった400万円は、父にお金がなかったのではなく、「使えなかった」可能性を示しています。「年金が少ないから無理だ」という言葉の裏に、お金だけでは説明できない心情――貯金が減ることへの恐怖や自分への失望やあきらめ、寂しさや悲しさ――が隠れていたとしても不思議ではありません。
筆者がFPとしてお伝えしたいのが、晩年のライフプランニングの役割です。FPとして活動するなかで実感するのは、ライフプランニングは人生の前半よりも、むしろ晩年にこそ重要になるということです。
老後になると、多くの場合、仕事や子育てといった外から与えられていた役割が減り、自分自身で人生の方向を定める必要が出てきます。そのとき、これから先の暮らしが描けない状態だと、人は驚くほど簡単に意欲を失ってしまうことがあります。一方で、人生の晩年に近づくほど「一般的な解決策」では満たされないケースは少なくありません。
晩年のライフプランニングは、人生の青写真を描き直す作業です。新たな未来を想像したり、社会とのつながりを持ったりするにはエネルギーが必要です。つながりが絶たれやすく、孤独を感じやすい環境にある高齢者こそ、精神的に追い込まれてしまう前に、「なにを守り、どのように残していくのか」を「本人らしさ」を言葉にする機会を持つことが重要です。
終活とは、人生を閉じる準備ではない
終活は、死後の準備ではなく、晩年の暮らしを壊さないための備えともいえるのではないでしょうか。
・いま、なにに不安を感じているのか
・やりたかったのに、やり残したことはないか
こうした心情を整理し、家族や専門家と共有できるようにしておくこと。それが結果として生きる意欲を保ち、セルフネグレクトという深刻な状態を防ぐことにつながる可能性があります。
セルフネグレクトは、特定の人だけの問題ではありません。誰の身にも起こり得るからこそ、早めの対策が重要です。相談現場に立つFPとして、そのように強く感じています。
参考資料
内閣府 経済社会総合研究所『セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査―幸福度の視点から 報告書』
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11539153/www.esri.go.jp/jp/prj/hou/hou060/hou60_03a.pdf
松崎 洋子, 堀口 和子, 岩田 昇『高齢者のセルフ・ネグレクト状態の類型化』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_132/_html/-char/ja
厚生労働省『法に基づく対応状況調査 付随(追加)調査』
https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001083447.pdf
内田 英子
FPオフィスツクル代表