「忙しいから、便りがないのは元気な証拠」そう自分に言い聞かせ、親の本当の暮らしから目を背けてはいないでしょうか。本当に深刻なときほど、親は子どもにSOSを出せないものです。その親心に甘え、現実を知ろうとしなければ、待っているのは取り返しのつかない後悔だけかもしれません。行政や専門家の手を借りてでも守るべきものとはなにか。ある家族の遅すぎた気づきからの学びをFPオフィスツクル代表・内田英子氏が解説します。※本記事で取り上げている事例は、複数の相談をもとにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から一部脚色を加えて記事化しています。読者の皆さまに役立つ知識や視点をお届けすることを目的としています。個別事例の具体的な取り扱いは、税理士・弁護士・司法書士など専門家にご相談ください。
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「ひとりでやれる」…信じたかった言葉
父は享年78。現役時代は仕事一筋で、引退後も家事や生活の細かなことはすべて母に任せきりでした。2年前に母が急逝してからは、Aさんは深い悲しみに暮れながら、父の暮らしを案じていました。
「お父さんが、一人で生活できるわけない」
母の死後半年ほどは心配で、月に1回は実家に帰省していました。しかし帰省のたび、父さんはAさんにこういってAさんを遠ざけました。
「Aの世話にはならんでも大丈夫だ。ひとりでやれる」
実際、Aさんがみたところ食事の回数は減っていたものの、Bさんの暮らしぶりは「質素な普通の暮らし」にみえました。
「心配しすぎだったのかもしれない」
それから、Aさんも多忙の日々を送るなかで、自然と実家から足が遠のいていってしまったのです。そんな折の、突然の知らせでした。
孤独死をまねく恐れ「セルフネグレクト」
父の生前の様子を振り返ると、「セルフネグレクト」の状態になっていたと考えられます。セルフネグレクトは「自己放任」「自己放棄」とも訳されますが、明確な定義はありません。厚生労働省『法に基づく対応状況調査 付随(追加)調査』によると、以下のように整理されています。
ときに「緩慢な自殺」と表現されるほど、深刻な問題です。内閣府経済社会総合研究所『セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査―幸福度の視点から 報告書』によると、全国でセルフネグレクト状態にあると考えられる高齢者は、約9,000~1万2,000人と推計されており、決して珍しいケースではありません。
セルフネグレクトにみられる兆候
多くの調査や研究では、セルフネグレクトの例として、次のような行動が報告されています。
・お風呂に入らない
・失禁を放置したり、極端に汚れた衣服を着用したりしている
・栄養の偏った食事を続ける
・ゴミや物をため込み、住環境が悪化する
・ペットを放置している
・家の破損や雨漏りを放置する
支援やサービスを拒否したり、財産管理が難しくなったり、地域のなかで孤立することで状況が悪化していくケースも少なくありません。父の晩年の暮らしは、いくつも当てはまっていました。セルフネグレクト状態に陥るきっかけはケースごとに異なりますが、配偶者など近しい人との死別が引き金になることも多いとされます。
父の場合も同様で、妻であるAさんの母が担っていた家事や健康管理、人とのつながりが死別によってすべて失われ、深い喪失感のなかで少しずつ生活が崩れていった可能性が考えられるでしょう。