(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニック経営において、「労災保険指定医療機関」および「生活保護指定医療機関」の指定を受けることは、地域医療への貢献と患者層の拡大に繋がる重要な要素です。これらの指定を受けることで、労働災害や生活困窮者の方々への医療提供が可能となるほか、公費による診療報酬の請求を行うことができ、経営面においても大きくプラスになることも多いといえます。本稿では、それぞれの指定を受けるための具体的な手続きや注意点を記載します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

労災保険指定医療機関とは?

労災保険指定医療機関とは、労働者災害補償保険法に基づき、労働者の業務上または通勤による負傷、疾病、障害に対して必要な医療を提供する医療機関として厚生労働大臣が指定したものです。以下、申請の流れについて順を追って見ていきましょう。

 

1. 申請資格の確認

原則として、開設後1年以上の診療実績があることが望ましいとされていますが、診療実績が短い場合も、地域医療の必要性などによって考慮される場合もあります。

 

とくに以下の診療科は、労災患者と関わる可能性が比較的高く、開業後すぐの申請でも考慮されることがあります。

 

●整形外科

労働災害による負傷で最も多いのは、骨折、捻挫、打撲などの外傷であり、整形外科による診療が中心となるため、労災保険指定医療機関としての需要が高いといえます。

 

●脳神経外科

頭部外傷や脳血管障害なども労災の対象となることがありますが、脳神経外科を標榜するクリニックは少ないため、申請が考慮される可能性があります。

 

●内科

業務による疾病、たとえばじん肺、職業性疾病、過労による内科疾患などが対象となる場合があります。近年ではCOVID-19後遺症も認知されるようになってきました。絶対的な件数も多く、需要は高いでしょう。

 

●精神科・心療内科

精神的な負荷によるうつ病や適応障害なども労災認定の対象となることがあり、近年は労災保険指定医療機関も増加傾向にあります。

 

2. 申請書類の準備

申請には、以下のような書類が必要となります。詳細は管轄の都道府県労働局にお問い合わせください。

 

①労災保険指定医療機関指定申請書

②病院(診療所)施設等概要書

③労災保険指定病院等登録(変更)報告書

④開設許可証の写

⑤知事届出事項に係る届出書の写

⑥その他労災診療費の算定に際して必要な事項の記載された書類(地方厚生局へ届け出た施設基準に関する受理通知の写)

 

3. 申請書の提出

準備した申請書類を、医療機関の所在地を管轄する都道府県労働局の労災補償課に提出します。提出方法(郵送または持参)は、事前に労働局に確認してください。

 

4. 審査

審査は都道府県労働局において、提出された書類に基づき行われます。必要に応じて、実地調査が行われる場合もあります。実地調査では、施設の状況、医療機器、人員配置、診療体制などが確認されます。

 

新規開設時の申請で不可となるケースとしては、既存の労災保険指定医療機関で十分に対応可能と判断された場合や、地域における労災医療提供体制のバランスを崩すと判断された場合は、申請が不可となることがあります。

 

そのほかにも、施設・設備の不備(特にCOVID-19蔓延後では感染対策の不備)や、個人情報保護・医療安全管理体制が不十分であり、実績がないという理由でも申請が不可になる場合があります。

 

審査の結果、指定基準を満たしていると認められた場合は、厚生労働大臣(または都道府県労働局長)から労災保険指定医療機関の指定通知書が交付されます。また、指定医療機関のリストに登録され、公示されます。

 

5. 指定後の手続き

指定医療機関として、労災保険診療に関する法令や請求方法などを遵守し、適切な医療を提供する必要があります。定期的な報告や更新手続きが必要となる場合もあります。

 

また、労災診療費の立替払いも可能となります。指定医療機関は公益財団法人労災保険情報センターとの契約により国から労災の診療費が支払われるまでの間、請求された診療費と同額を無利子で立替払いを受ける制度が利用できます。

生活保護指定医療機関とは?

生活保護指定医療機関とは、生活保護法に基づき、生活困窮者に対して必要な医療を提供する医療機関として都道府県知事、市長(特別区の区長を含む)または福祉事務所長が指定した医療機関のことを指します。以下、申請の流れについて順を追って見ていきましょう。

 

1. 申請書の提出

新規開業のクリニックの場合は、保険医療機関の申請と同時に生活保護指定医療機関の申請を行うこともできます。その場合は、保険医療機関等と指定医療機関の申請書類を地方厚生局の都道府県事務所に提出することになります。

 

保険医療機関としてすでに指定を受けている場合は、医療機関の所在地を管轄する都道府県、市町村の福祉事務所の生活保護担当課に提出することになります。提出方法(郵送または持参)は、事前に福祉事務所に確認してください。

 

2. 審査

福祉事務所において、提出された書類に基づき審査が行われます。

 

必要に応じて、職員による実地調査が行われる場合もあります。実地調査では、施設の状況や生活保護受給者への対応方針などが確認されます。

 

生活保護法第49条の2第2項は、指定医療機関、指定介護機関及び指定助産機関の指定の欠格事由を定めています。具体的には、

 

二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなるまでの者

四 (中略)医療機関、薬局開設の許可若しくは医薬品の販売業若しくは配置販売業の許可を取り消され、その取消しの日から起算して五年を経過しない者

五 前号に規定する指定、許可若しくは免許を取り消された者が法人である場合においては、その取消しの理由となった事実が発生した当時現にその法人の役員又はその事業所の管理者であった者で、その取消しの日から起算して五年を経過しないもの

 

といった内容であり、インターネット上での犯罪歴なども綿密にチェックされます。

 

とはいえ、生活保護指定医療機関の審査は、前述の労災保険指定医療機関と比べると、ハードルが低い傾向があります。その理由として、生活保護対象となる方は基礎疾患を有していることも多く、需要も高いため、新規開業時においても申請はおおむね通過します。

 

審査の結果、指定基準を満たしていると認められた場合、都道府県知事、市長または福祉事務所長から生活保護指定医療機関の指定通知書が交付されます。

留意事項

留意事項としては、下記の3点があげられます。

 

◆申請窓口

先述した通り、労災保険は都道府県労働局、生活保護は都道府県・市町村の福祉事務所と、申請先が異なります。よく注意したうえで申請書類を作成してください。

 

◆自治体による差異

生活保護指定医療機関の申請書類や手続きは、自治体によって異なる場合があります。必ず管轄の福祉事務所に事前に確認するようにしましょう。

 

◆審査期間

書類の申請から認可までにかかる時間は自治体により異なりますが、1ヵ月から3ヵ月を要することが多くなっています。このため、開業日からスケジュールを逆算し、余裕をもって申請手続きを進めることが重要です。

労災保険指定医療機関・生活保護指定医療機関の指定を受けることは有益

労災保険指定医療機関および生活保護指定医療機関の指定を受けることは、クリニックの社会的な役割を果たすうえでも重要なものであり、経営面においてもプラスに働くことが多くあります。

 

診療が公費対象となるため、さまざまな書類作成や申請手続きは煩雑に感じるかもしれませんが、地域医療への貢献という意義を理解し、両者とも指定を受けることをおすすめします。ぜひ検討してみてください。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師