事態はさらにエスカレート

しかし、事態は悪化します。孫が走り回るようになると、怪我をさせてはいけないと目が離せず、落ち着いて座ってもいられません。

また食事の支度も、夫との2人分ならスーパーのお惣菜で簡単に済ますところ、息子一家がいるとなるとそうもいかず、朝昼晩の献立を考えるだけでもひと苦労。孫が帰るとどっと疲れ、寝込んでしまうこともありました。

負担がかかっているのは心身だけではありません。食費は普段の倍に膨らみ、孫の消耗品やレジャー費などを含め、帰省によって発生する費用が家計を圧迫します。

また節句やクリスマス、孫の誕生日、入園祝いなど、プレゼントやご祝儀を贈っていた結果、年金だけでは足りず、貯蓄を切り崩して生活せざるをえなくなっています。

「実家を無料の託児所だとでも思っているんでしょうか。かわいい孫のためならなんでもするつもりでしたが、お金もかかるし、体も疲れるし……こんなこと言いたくないですが、孫が生まれる前のほうが幸せでした」

そう肩を落とす佳代さんの表情には、「こんなはずじゃなかった」という失望がにじんでいました。

「ルールづくり」が必須

この事例の問題点は、佳代さん夫婦が本音を押し殺して「理想の祖父母像」を演じ続けた結果、息子夫婦による無自覚な“搾取”が定着してしまったことにあります。

この状況を改善するには、佳代さん夫婦が金銭負担や役割分担について「ルール」を定め、話し合いを提案する必要がありそうです。

育児の負担が大きくなり、帰省が喜べなくなっていること。帰省のたびに出費がかさみ、貯蓄を取り崩す事態になっている現状について率直に伝え、そのうえで「費用は折半」「消耗品は持参」といったルールを提案してみるとよいでしょう。

お金を「出したくない」のではなく、自分たちの老後資金を守るために「出せない」のだと正直に打ち明ければ、息子夫婦も「親に無理をさせている」という事実に気づくはずです。

育児や家事の丸投げについても、「帰省は月1回まで」「使った部屋は掃除して帰る」といった具体的な線引きをすることで、相手も実行に移しやすくなります。

もともと、孫が生まれる前は良好な関係だった息子夫婦ですから、適切な距離感があれば、また良好な関係性に戻れるかもしれません。