約47兆円が家庭内で“行方不明”になりうる時代――現金保管の落とし穴

その後も、佐伯家の30万円は見つからないままでした。恐らく間違って捨ててしまったのだろう……夫婦は諦めるしかありませんでした。それでも、普段慎ましく暮らしていることもあり、「30万円あれば、あれもこれもできたのに」という思いだけは、心の奥に重く残り続けたのです。

しかし、こうしたケースは決して特殊ではありません。民間の経済研究機関による試算では、自宅の金庫や引き出しなどで保管される、いわゆる「タンス預金」は、2025年夏時点で約47兆円規模に上るとされています。低金利を背景に一時は60兆円規模まで膨らみましたが、金利上昇や相次ぐ広域強盗事件を受けて減少局面に入ったとみられています。

それでもなお、約50兆円近い現金が家庭内に滞留している計算になり、自宅に多額の現金を置く人が一定数いる実態は変わっていません。特に70代以上では「いざという時に現金が必要」などといった理由から、タンス預金が多い傾向が推察されます。

しかし、現金の自宅保管には想像以上のリスクがあります。

・本人が“隠し場所を忘れる”リスク
年齢とともに、収納場所を増やす、紙袋や封筒に分類してしまう、一時的に置いた場所を忘れる、という事態が増えます。今回の佐伯家も、まさにこれでした。紙袋がリサイクル用のゴミに紛れた可能性は否定できず、捨てたのかどうかも本人に確信がありません。

・家族に伝えていないことで“消滅”するリスク
分散保管している本人しか場所を知らないと、認知症を発症した際、急病で入院した際、遺品整理時などに"残っていたはずの現金が消える"という事態も起こり得ます。

・盗難や火災保険の対象外が多い
火災や地震、空き巣被害に遭った場合、現金はほとんど補償されません。火災保険でも現金の補償は20万円程度が上限となっているのが一般的です。高齢者世帯ほど「現金を持ちすぎる」こと自体がリスクになり、老後破綻に直結する可能性もあるのです。