FPからのアドバイス:相談先を知り、必要に応じてお金を使い、支援を得る

正之さんには約6,500万円の資産がありました。しかし、外部の支援を受けるという発想がなかった正之さんは、そのお金をほとんど使わずに抱え込んでいたのです。正之さんが終わりの見えないダブル介護から脱け出すためには、このお金を役立てなくてはなりません。

限界まで我慢する前に正之さんがすべきだったのは、地域包括支援センターへの相談です。地域包括支援センターは、高齢者の介護・福祉・医療に関する総合相談窓口です。正之さんのように二人を同時に介護している場合は、「妻と母、両方の介護で限界です」といったように、現状を正直に伝えましょう。

認知症の母にはグループホームという選択肢があります。少人数で家庭的な環境の中、認知症ケアの専門スタッフが対応する施設です。要介護2でも入所可能で、費用は月15万〜30万円程度(一般的に数十万円程度の初期費用が必要)。正之さんの資産で十分に対応できるでしょう。

妻・泰子さんの介護についても、一人で抱え込む必要はありません。介護保険を利用すれば、訪問介護(ヘルパー)に入浴や排泄の介助を任せることができます。週に数回でもヘルパーに来てもらえれば、正之さんの身体的な負担は大きく軽減されます。

また、ショートステイ(短期入所)の定期的な利用も効果的です。泰子さんに数日間施設に滞在してもらえば、正之さんはまとまった休息を取れます。「休むことも介護のうち」という意識を持つことが大切です。

正之さんは外部に頼る方法を知らなかっただけで、使える制度やサービスはたくさんあります。まずは地域包括支援センターに相談し、母と妻それぞれに合ったケアプランを立ててもらいましょう。 智代さんにもできることがあります。5年前の取り決めは、当時の状況に基づいたものでした。しかし泰子さんが倒れた今、状況は一変しています。「相続した兄に全部任せた」で終わりにせず、改めて兄弟で話し合うべきでしょう。

施設探しの情報収集を手伝う、地域包括支援センターへの相談に同行するといった支援は、正之さんの気持ちにゆとりをもたらすはずです。

お金はいざというときに使うためにあります。正之さんのように資産があっても、使い方を知らなければ追い詰められてしまいます。相談先を知り、適切にお金を使う。それが、介護に直面した家族全員を守る、現実的な道なのです。

松田聡子
 CFP®