平均寿命の延びに伴い、要介護者を介護する人も高齢化する「老老介護」が増えています。中には、親の介護とともに配偶者の介護が加わる、「ダブル介護」が必要なケースもあります。今回は、年老いた母と年上妻のダブル介護で肉体的にも精神的にも限界になった65歳の男性の事例と解決策を、CFPの松田聡子氏が解説します。
虚ろな目、瘦せこけた身体…母・妻と共に暮らす65歳兄の「異様な変貌」に妹、愕然。資産6,500万円「お金は十分ある」はずが“極限状態”に陥ったワケ【CFPが解説】
FPからのアドバイス:相談先を知り、必要に応じてお金を使い、支援を得る
正之さんには約6,500万円の資産がありました。しかし、外部の支援を受けるという発想がなかった正之さんは、そのお金をほとんど使わずに抱え込んでいたのです。正之さんが終わりの見えないダブル介護から脱け出すためには、このお金を役立てなくてはなりません。
限界まで我慢する前に正之さんがすべきだったのは、地域包括支援センターへの相談です。地域包括支援センターは、高齢者の介護・福祉・医療に関する総合相談窓口です。正之さんのように二人を同時に介護している場合は、「妻と母、両方の介護で限界です」といったように、現状を正直に伝えましょう。
認知症の母にはグループホームという選択肢があります。少人数で家庭的な環境の中、認知症ケアの専門スタッフが対応する施設です。要介護2でも入所可能で、費用は月15万〜30万円程度(一般的に数十万円程度の初期費用が必要)。正之さんの資産で十分に対応できるでしょう。
妻・泰子さんの介護についても、一人で抱え込む必要はありません。介護保険を利用すれば、訪問介護(ヘルパー)に入浴や排泄の介助を任せることができます。週に数回でもヘルパーに来てもらえれば、正之さんの身体的な負担は大きく軽減されます。
また、ショートステイ(短期入所)の定期的な利用も効果的です。泰子さんに数日間施設に滞在してもらえば、正之さんはまとまった休息を取れます。「休むことも介護のうち」という意識を持つことが大切です。
正之さんは外部に頼る方法を知らなかっただけで、使える制度やサービスはたくさんあります。まずは地域包括支援センターに相談し、母と妻それぞれに合ったケアプランを立ててもらいましょう。 智代さんにもできることがあります。5年前の取り決めは、当時の状況に基づいたものでした。しかし泰子さんが倒れた今、状況は一変しています。「相続した兄に全部任せた」で終わりにせず、改めて兄弟で話し合うべきでしょう。
施設探しの情報収集を手伝う、地域包括支援センターへの相談に同行するといった支援は、正之さんの気持ちにゆとりをもたらすはずです。
お金はいざというときに使うためにあります。正之さんのように資産があっても、使い方を知らなければ追い詰められてしまいます。相談先を知り、適切にお金を使う。それが、介護に直面した家族全員を守る、現実的な道なのです。
松田聡子
CFP®